2019年4月1日より働き方改革関連法案の一部が施行されたことで、日本の各企業は安倍政権が掲げる「一億総活躍社会」の実現に向けた労働環境の改善と、労働生産性の向上のための様々な対策に取り組んでいます。
この「働き方改革」は大企業だけでなく中小企業も含めたすべての企業が対象で、運送業も例外ではありません。この記事では、運送業における「働き方改革」の影響によって、トラック運転手の働き方が今後どのように変わっていくのかについて詳しく解説していきます。
政府が発表した運送業の働き方改革とは?
政府が発表した働き方改革のひとつに「時間外労働の上限規制」の導入があり、これまで36協定の特別条項によって無制限に設けることができた時間外労働に上限規制が適用されるようになりました。
トラック運送業においても、運行管理者や事務員については年720時間以内を上限とする時間外労働の上限規制が適用済み。運転手を対象とした自動車運転業務については年960時間が上限とされ、こちらは2024年4月から適用が開始されることが決まっています。
こうした時間外労働の上限規制導入は、長年のあいだ長時間労働が問題視されてきた運送業界にとって大きな影響があり、施行に向けての早急な対策と取り組みが各事業者に求められます。
働き方改革はなぜ必要?背景には労働人口の減少と少子高齢化あり
「働き方改革」が必要な理由には、日本が抱える「労働人口の減少」と「少子高齢化」の2つの問題が大きく関係しています。
※労働力人口とは、15歳以上で労働する意思と能力のある者の数のことを言います。
現在の日本の人口は約1億1,000万人ですが、2050年には1億人を下回り、それに伴い労働人口も8,000万人から5,000万人に減少すると言われています。そのため、将来的に日本は少ない労働人口で高齢者達を支えていかなければいけません。
こうした現状に対して政府は、少子高齢化が進んでもあらゆる立場の人々がそれぞれの環境に応じて多様な働き方ができる「一億総活躍社会の実現」を目指すために必要な対策として「働き方改革」を打ち出したのです。
運送業における働き方改革の行動計画
「働き方改革」によってもたらされる変化に対応するため、全日本トラック協会は2018年3月に「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」と呼ばれる行動計画を策定しています。
この行動計画にはトラック事業者が取り組むべきことについて、以下のような内容がまとめられています。
労働生産性を向上させる
運送業界は深刻な人手不足と、それに伴う働き手の負担増加による長時間労働が常態化しているなど大きな問題を抱えています。こうした人手不足が引き起こす弊害に対応していくためには、1人あたりの労働生産性を向上させていくことが求められます。
そのためには
- これまでの業務の見直し
- 仕組みの変化
- 新たな設備の導入
- ITやロボット等の技術革新
などの対策に積極的に取り組んでいく必要があります。また、これらの対策を推進していくための人材の育成と強化に取り組んでいくことも重要となります。
上記の対策をよく見ると一般企業が推し進めるべき事項と変わらないのがよくわかります。トラック運送業界であっても、一般企業同様にテクノロジーの導入や一層の業務改善が必用になるということですね。
女性や高齢者などの働き手を増加させる
運送業の人手不足に対応していくためには女性や高齢者等の働き手にも着目し、働き手を多様化し増加させることが重要です。そのためには、
- 省力機器(テクノロジー)の導入
- 手荷役の見直し
- 短時間勤務が可能な業務の創出
- 女子専用トイレやロッカーの設置
- 妊娠・出産を考慮した育児休業制度
など、女性や高齢者が働きやすい職場環境や労働環境の整備を進めていくことが必要です。これからの運送業界にはこうした対策に取り組むことで労働参加率を高めていき、人手不足に対応していくことが求められます。
ワークラライフバランスを改善する
現代の社会は、仕事と生活をうまく両立していくことが難しい構造となっており、その結果として「晩婚化・非婚化」「少子化問題」「育児離脱」といった問題が深刻化しています。
こうした状況を食い止めるには長時間労働の是正や、それぞれの生活に合わせた柔軟な働き方を取り入れてワーク・ライフ・バランスを改善していかなければなりません。また、働き手の労働意欲を失わないよう正当な処遇を行うことや、不合理な格差をなくしていくことも求められています。
運送業の働き方改革で3K労働から3A(安全・安心・安定)労働を実現
運送業界は「2割長く、2割安い」と言われているように、全職業平均よりも低賃金で長時間労働を強いられている状況が長く続いています。
特に長時間労働に関しては、トラック運転手に対しても2024年から「時間外労働の上限規制」が適用されるため、「働き方改革」に対する早急な対策が必要となり、運送業界にとって大きな課題のひとつでもあります。
こうした背景から、2018年5月30日に政府によって「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画~『運び方改革』と安全・安心・安定(3A)の職業運転者の実現~(案)」と題された詳細な行動計画が策定されました。
この行動計画には
- 労働生産性の向上
- 多様な人材の確保・育成
- 取引環境の適正化
など、「働き方改革」の実現と「きつい・汚い・危険」の3K労働から「安全・安心・安定」の3A労働の実現に向けた取り組みを強化するための88施策が記載されています。
運送業の働き方改革の行動計画の猶予期間とは
2019年4月1日より働き方改革関連法案の一部が施行され、今後もスケジュールに沿って順次施行が予定されています。
運送業に関係が深いものとして「時間外労働の上限規制」がありますが、こちらに関しては猶予期間が設けられており、大企業と中小企業、運転手を対象とした自動車運転の業務とその他(事務員や運行管理者など)の業務とで猶予期間に違いがあります。
運送業における「時間外労働の上限規制」の猶予期間については、その他(事務員や運行管理者など)の業務の場合、すでに大企業と中小企業ともに適用されていますが、運転手を対象とした自動車運転の業務については2024年4月1日からの適用となっています。
大企業の猶予期間
「時間外労働の上限規制」以外のものについても猶予期間が設けられていて、これらに関しても企業規模によって猶予期間に違いのあるものがあります。
大企業にのみ適用される猶予期間については、「同一労働・同一賃金(パートタイム労働法・労働契約法)」が働き方改革関連法案の施行から1年の猶予期間を経た2020年4月1日から適用されています。
中小企業の猶予期間
中小企業に適用される猶予期間については「同一労働・同一賃金(パートタイム労働法・労働契約法)」が大企業よりも1年遅い2021年4月1日から適用されます。
また、大企業ではすでに適用されている「月60時間超の時間外割増賃金率引上げの中小企業への適用」が2023年4月1日から適用となります。
日本企業は、そのほとんどを中小企業が占めているため、一部のものについてはより着実に実施することを目的として、大企業よりも長い猶予期間が設けられています。
ちなみに、猶予期間が企業規模に関係なく共通しているものに関しては以下のようなものがあります。
- 同一労働・同一賃金(労働者派遣法)(2020年4月1日から適用)
- 時間外労働の上限規制(年960時間)の適用【自動車運転業務】(2024年4月1日から適用)
まとめ
「働き方改革」によって日本企業のこれまでの働き方に対する意識と取り組みはガラリと変わっていきます。
これはトラック運送業界にも共通していることであり、今後は各トラック運送事業者の労働環境の改善や労働生産性の向上に向けた対策への取り組みが一層活発になっていくことが考えられます。
長時間労働の常態化、人手不足による労働人口の減少など運送業界の抱える課題はまだまだ山積みで、トラック運送事業者はこれから難しい選択と判断を迫られる場面も増えていきそうです。