労働環境の改善と労働生産性の向上を目的に2019年4月から始まった「働き方改革」。長時間労働が問題視されている運送業界にとっても「時間外労働の上限規制」の適用が予定されているなど、大きな転換期を迎えようとしています。
そこで、このページでは
- トラックドライバーの時間外労働の現状
- 働き方改革による今後の変化
について詳しく解説していきます。
トラックドライバーの時間外労働の現状
厚生労働省による、企業を対象に労働時間や給与について調査した「賃金構造統計調査」では、トラックドライバーの1か月の平均労働時間は210時間、残業時間は約30~40時間となっています。
その一方で、実際に現場で働くトラックドライバーに行った調査によると1か月の平均労働時間は242時間、残業時間は約70時間となっており、「賃金構造統計調査」に比べて労働時間の平均値が大幅に増加。これらの調査結果の違いは恐らく
- 企業側が荷待ち時間等を労働時間に含んでいない
- 実際よりも労働時間を低く申告している可能性がある
などの理由が考えられます。
また、ドライバーの調査では職種別の統計もとっており、そのなかでも長距離ドライバーに関しては1か月の労働時間が310時間にも及び、過労死ラインをはるかに超える130時間以上の残業を強いられている状況です。
このように、運送業の時間外労働の現状は過度な残業による長時間労働が蔓延しており、一刻も早い改善が必要な状況となっています。
長時間労働、上限なしの残業は百害あって一利なし
「百害あって一利なし」
長時間労働や上限なしの残業にはこの言葉がピッタリ当てはまります。なぜなら、過度な長時間労働は、仕事のパフォーマンスを大きく下げ、健康面にも悪影響をもたらすなど何一ついいことはなく、最悪の場合、うつ状態や過労死につながることもあるからです。
また、長時間労働が及ぼす影響は仕事面や健康面以外にも様々なケースがあり、具体的には以下の通りです。
健康確保ができない
長時間労働による影響が最も大きいのはやはり健康面であり、特に長時間労働が常態化しているトラックドライバーにとっては深刻な問題のひとつでもあります。
トラックドライバーの場合、長時間労働に加えて、不規則な勤務になりやすいなどの影響から健康状態に問題を抱えることが多く、過労死につながるケースも増えています。
厚生労働省が発表した「令和元年版過労死等防止対策白書」によると、脳・心臓疾患の業種別労災請求と労災決定及び労災支給決定の件数は運輸業が最も多く、それぞれ
- 労災請求197件(死亡件数56件)
- 労災決定174件(死亡件数52件)
- 労災支給決定94件(死亡件数31件)
となり、他の業種に比べていずれも圧倒的に多い数字となっています。このような結果は、健康確保が難しいトラックドライバーの過酷な労働環境が大きく影響していると言えるでしょう。
仕事と家庭の両立が困難になる
長時間労働で毎日仕事に追われると、子供との会話や夫婦のコミュニケーションの時間が奪われるなど、家庭との両立が難しくなります。
とくに女性の場合、子育て期間であれば家事以外にも子供の保育園や習い事の送り迎え、学校の宿題の確認や行事への参加など多くのことをこなさなければならず、長時間労働の環境下で働くには負担が大きくなります。
そのため、生活スタイルに合わせた柔軟な働き方ができないような会社であれば退職せざるを得ない状況になるなど、長時間労働がもたらす影響によって活躍の場を失う恐れもあるのです。
少子化の原因にもなっている
男性が長時間労働やまともな休みが取れずに家事・育児に参加できなければ、これらの負担がすべて女性にのしかかるため、家庭への影響が大きくなります。また、それ以外にも長時間労働は少子化の原因にもなることがわかっており、男性の家事・育児への積極的な参加が出生率に大きな影響を与えています。
内閣府の「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2019」によれば、夫が休日に家事・育児にまったく参加していない場合の第2子以降の出生率は10%と低く、2時間以内で2.8%、2時間以上4時間未満で59.2%といったように、家事・育児への参加時間の増加と出生率の増加は比例していることが確認されています。
最も出生率が高かったのは6時間以上の場合で87.1%となり、家事・育児に参加しない場合と比べ8.7倍にもなり、その差は歴然です。
男性の家庭参加を阻んでいる
過度な長時間労働は、男性の家庭参加を阻む要因となっており、女性の家事・育児の負担が大きくなるだけでなく、子供との大切な時間も奪われます。男性の場合、仕事にかたよったライフスタイルになってしまうことで心身のリフレッシュがうまくできず、意欲的に働けなくなるなど仕事に悪影響を及ぼしかねません。
また、家庭の負担が増えてしまった女性に関しては、活躍の場が広がらなくなり社会進出の機会損失にもつながるなど、長時間労働が原因で多くのデメリットが生じます。
トラックドライバーの時間外労働に上限規制について
法定の労働時間と休日については、
- 1日8時間、1週間で40時間を超えてはいけない
- 休日は少なくとも週1日か4週間を通じて4日以上
という決まりがあります。
ただし、この決まりを超える時間外・休日労働が必要な場合は労使間で書面による協定を結ぶことで時間外労働や休日労働が可能となります。この協定のことを一般的に「36(サブロク)協定」と呼びますが、これまでは36協定の特別条項で残業時間が無制限に設定することができていました。
そのため、長年にわたり人手不足が続いている運送業界では長時間労働が常態化。なかでもトラックドライバーの労働環境は大きく悪化していきました。
ですが、2019年4月から始まった働き方改革によって、「時間外労働の上限規制」が設けられ、これを機にトラックドライバーの残業時間が見直されることとなりました。
2024年3月31日までは猶予期間で上限規制なし
働き方改革による「時間外労働の上限規制」については会社規模によって適用までの猶予期間が設けられています。
運送業においてはトラックドライバーを除く、事務員や運行管理者、倉庫作業員などの職種に適用される一般職について、大企業が2019年4月1日から、中小企業が1年の猶予期間を経た2020年4月1日から適用となりました。
肝心のトラックドライバーへの適用は、特例として別の猶予期間が設けられていて、働き方改革関連法案の施行から5年後の2024年4月1日からとなり、その間は依然として上限規制がない状態が続きます。
2024年4月1日から時間外労働の上限は960時間
働き方改革による「時間外労働の上限規制」によって、以下のような上限が定められました。
- 年720時間
- 複数月平均80時間
- 月100時間未満
- 月45時間超え6か月まで
ただし、これは一般職のため運送業で適用されるのは事務員や運行管理者、倉庫作業員などの職種となっています。トラックドライバーに関しては上限に違いがあり、以下のようになっています。
- 年960時間
- 1月あたり上限なし
- 複数月平均規制なし
- 月45時間超え月数上限なし
このように一般職とトラックドライバーの上限には大きな差があることがわかります。
まとめ
長時間労働は身体的、精神的な消耗だけでなく、家庭環境など様々な面にも影響をおよぼします。そのため、一刻も早い改善が望まれますが、トラックドライバーの長時間労働に関してはまだまだ課題が山積みです。
「時間外労働の上限規制」についても一般職との違いをみると、やはり相当な時間を要することが想像できます。
ただし、将来的には一般測の適用を目指していく規定が設けられているため、今後も長時間労働の改善に向けた取り組みは積極的に進められていくことが予想されます。今後についてはこれまでよりも明るい希望が持てそうですね。