トラックドライバーの労働環境は、人手不足や長時間労働などで年々悪化している状況です。こうした問題に対し、近年では働き方改革をはじめとする様々な改善に向けた施策が講じられており、その中のひとつに「トラック運送の各種ガイドライン」というものがあります。
この記事では「トラック運送の各種ガイドライン」について、その目的と押さえるべきポイントについて詳しく解説していきます。
トラック運送の各種ガイドラインとは?
トラック運送の各種ガイドラインとは、「トラック運送サービスを持続的に提供可能とするためのガイドライン」のことを言います。このトラック運送の各種ガイドラインは2016年7月に国土交通省をはじめ、
- 学識経験者
- トラック運送事業者・荷主等の関係者
- 関係省庁
によって構成された「トラック運送業の適正運賃・料金検討会」による議論を踏まえ、2018年12月27日に取りまとめられました。
トラック運送サービスを持続的に提供可能とするためのガイドラインの概要ってなに
トラック運送の各種ガイドラインの概要については、「法令を遵守しつつトラック運送機能の持続的確保を図る上でコストが必要になることについて、荷主・運送事業者双方の共通理解を促すためにガイドラインとしてとりまとめました」との記載があります。
この内容をもう少し具体的に説明すると、以下のとおりです。
- まず、現在の運送業界は深刻な人手不足から違法な長時間労働が蔓延しているため、このようなコンプライアンス違反は防止していかなければいけません。
- さらに、そのうえで運送サービスの持続的な提供をしていくことも重要となります。
- ただし、そのためには当然ながら様々なコストがかかってくるため、改善に向けた取り組みには運送事業者の努力だけでなく、荷主の協力も必要となります。
- そのため、こうした事実について運送事業者と荷主の共通理解を促していくことが重要なため、ガイドラインが取りまとめられたというわけです。
ガイドラインの目指すところ、目的とは?
トラック運送の各種ガイドラインの目指すところは、運送事業者がコンプライアンス(法令順守)違反の防止に向けた労働環境の改善に取り組み、適正な運賃・料金を受け取ることができる環境を整備していくことにあります。
ただし、こうした改善は運送事業者の努力だけでは限界があり、荷主の協力が欠かせません。
なぜなら、トラックドライバーの長時間労働の問題は人手不足のほかにも業務中の「無駄な荷待ち時間」など荷主側の原因となっているものもあり、改善していくには荷主にしかできない取り組みも数多くあるからです。
そのため、運送事業者と荷主双方の共通理解を促していくことで環境改善に向け互いに協力しながら取り組んでいくことを目的としてガイドラインがまとめられたのです。
7つのガイドラインを押えよう
トラック運送の各種ガイドラインには法令順守とそれに伴うトラック運送機能の持続的確保のために必要な「コストの説明」や、運送の効率化のための「運行事例の紹介」など、7つの具体的なガイドラインがまとめられています。
7つのガイドラインそれぞれの概要については以下のとおりです。
ガイドライン1|コンプライアンス遵守の重要性
過度な長時間労働はコンプライアンス(法令順守)違反になるだけでなく、トラックドライバーが安全に業務をこなすのに支障をきたす恐れがあり、トラックドライバーの安全確保の観点からコンプライアンスはとても重要となります。
そのため、トラック運送の各種ガイドラインにはトラックドライバーが改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)を順守する義務があるとして
- 拘束時間
- 休息時間
- 運転時間
- 連続運転時間
に関する情報について具体的にまとめられています。
ガイドライン2|「拘束時間」の定義
拘束時間に関しては、「休憩時間」などを拘束時間として捉えていない運送事業者も多く、結果としてトラックドライバーの長時間労働につながる原因となっています。
2024年4月から、働き方改革関連法によって「時間外労働の上限規制」が適用されることもあり、トラック運送の各種ガイドラインではこのような認識の違いを改めるために拘束時間の定義についてまとめています。
ガイドライン3|コンプライアンス違反を防ぐ
長時間労働によるコンプライアンス違反を防ぐためには、業務の長時間化に影響を及ぼしている「荷待ち時間」の抑制のほか、「高速道路の利用」による労働時間の短縮などの対策が必要で、これらの改善に向けた取り組みには荷主の理解と協力が欠かせません。
トラック運送の各種ガイドラインでは、こうしたコンプライアンス違反の防止に向けて、運送事業者と荷主が協力しながら取り組むべき対策について、具体例や取組例が詳細にまとめられています。
ガイドライン4|運送に必要なコスト
コンプライアンスとトラック運送サービスを持続的に提供していくには、運送に必要なコストがまかなえなければいけません。また、運送にはどのようなコストが発生しているのかをしっかりと理解しておく必要もあります。
そのため、トラック運送の各種ガイドラインでは運送に必要とされている「直接費(運送費)」と「間接費」に関し、それぞれにかかるコストについての情報が詳細にまとめられています。
ガイドライン5|ルール違反に関する行政処分の強化
働き方改革を進めていくには、コンプライアンスの強化が重要なため、国土交通省はルール違反に関して以下のような行政処分の強化を進めています。
- 違反事業者に対する行政処分の強化(停車日数の引き上げ)
- 事業停止を課するトラック車両数を、最大5割まで引き上げ
トラック運送の各種ガイドラインではこれらの強化された行政処分の詳細についての説明と、具体的な数字の変更点に関する情報がまとめられています。
ガイドライン6|荷主勧告制度に基づく勧告
トラックドライバーの「拘束時間」や「休息期間」を定めた改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)に違反した場合、これまでは運送事業者のみが処分を受けていました。
トラック運送の各種ガイドラインでは、これらの制度に対し新たに荷主勧告制度に基づく勧告制度が加えられたことについての情報が記載されています。
ガイドライン7|荷待ち時間を乗務記録に記載するケース
トラックドライバーの「荷待ち時間」については残業代の削減のため、労働時間には含めずに休憩時間として扱っている運送事業も多く、また、荷主も時間削減に向けた対策を取っていないこともあり、トラックドライバーが長時間労働を強いられてしまう大きな原因となっています。
しかし、本来は荷主都合で30分以上待機した場合には乗務記録に記録する必要があります。そのため、トラック運送の各種ガイドラインでは、こうした荷主都合による荷待ち時間が発生した場合についての乗務記録への記載対象の項目に関する詳細がまとめられています。
トラック運送の各種ガイドラインを守らないとどうなるの?
トラック運送の各種ガイドラインは、長時間労働の常態化や低賃金といった運送業界の労働環境の改善と、トラック運送機能の持続的確保に向けた取り組みについてまとめられています。
そのため、今後に向けた対策には運送事業者と荷主が共に協力していくことが重要です。
双方がガイドラインを守らず互いに歩み寄らなければ、この先労働人口が減少し続けていく中で、運送事業者については働き手が増えていかず、さらに過酷な労働環境となっていくでしょう。
また、荷主においてはトラックドライバーの人手不足から、輸送依頼が今よりも困難になっていくため、お客様の希望に沿って荷物を届けるのが難しくなるなどの弊害が生じるようになるなど、今よりもさらに状況が悪化していくことが予想されます。
まとめ
法令順守とそれに伴うトラック運送機能の持続的確保のために必要なコストについてまとめられた「トラック運送の各種ガイドライン」。
働き方改革が進められていくなかで、運送業界が今後の変化に対応していくには運送事業者の努力だけでは非常に厳しいのが現実です。
そのため、ガイドラインについては早い段階から運送事業者と荷主の双方がしっかりと理解をしたうえで協力しながら、改善に取り組んでいくことが重要になってくると言えるでしょう。