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労働基準法

運送業によくある固定残業・みなし残業についてよくわかる記事

kglo-kawai

運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

トラック運送会社の賃金規定においては、ある一定時間分の残業代=時間外労働手当を固定賃金に含めることがあります。

しかし実際のところ、「固定残業」、「みなし残業」については、混同しがちなのも事実でしょう。会社と運転者の間では、未払い賃金をめぐって訴訟になることも少なくありません。

では固定残業、みなし残業にはどのような違いがあるのでしょうか。

そこで、このページでは
・固定残業=みなし残業ではない?混同しがちな原因とは
・固定残業とみなし残業の違いについて
・労働基準法に定められた残業時間の規定について
・トラック運送業で固定残業とみなし残業が問題となる要因とは?
・トラック運送業で固定残業制にするメリットとは
というトピックについてザックリ解説していきます。

トラック運送業に関わる事業者様はご参考にしていただければ幸いです。

固定残業=みなし残業ではない?混同しがちな原因とは

労働基準法第38条の2は、労働時間の把握が難しい事業場外労働の場合、あらかじめ定めておいた時間分働いたとみなすことを規定しています。これがいわゆる「みなし残業」になります。

しかし、現場に管理者が同行していたり、携帯電話で逐一運行指示をしていたり、集配先から帰社時間まで詳細に指示していたりする場合は、労働時間の把握ができる状況にあり、この規定は適用されません。

ちなみに、労働基準法第38条の2の内容は以下のようになっています法律の条文が苦手だという方は読み飛ばして次をご覧ください。

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
3 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

 

トラック

 

「固定残業制度」と「みなし残業制度」の違いについて

ここでは、固定残業制度とみなし残業制度は具体的にはどのような違いがあるのか見ていきましょう。まずは固定残業のご説明からです。

 

固定残業制度とは

固定残業代制度とは、「固定給の中にあらかじめ残業代を固定して含めておく制度」のことです。たとえば、雇用契約書の中に「賃金に〇〇時間分の残業代を含む」としておき、その時間を超えた残業分については、新たに時間外手当を支給するわけです。

 

みなし残業制度とは

一方、みなし残業は「設定した時間を超えても時間手当は払わなくても良い」というものです。つまり残業時間がどんなに長くなろうとも、あらかじめ設定した時間が残業時間になるということです。

この「みなし残業」は、裁量労働制や事業場外労働の際によく適用されます。

ちなみに、裁量労働制とは、簡単に言うと労働時間の長短を問わず、一定時間働いたことにする制度のことです。

 

労働基準法に定められた残業時間の規定について

労働時間には、「所定労働時間」と「法定労働時間」があります。

所定労働時間」とは、会社の就業規則や雇用契約書など契約によって定められた労働時間のことで、始業時間から終業時間まで(休憩時間を除く)、すなわち会社が定めた労働時間を指します。

法定労働時間」とは、労働基準法第32条によって規定されている労働時間であり、1日8時間、週40時間と上限が定められています。また同第36条は、労働者と会社の間で協定を結んだ場合、労働時間の上限を超える延長や休日に労働をさせることができる規定となっています。

したがって残業には、所定労働時間を超える法定労働時間内の残業と、法定労働時間を超える残業の2種類があることとなります。

以下で、所定労働時間を超える残業と法定時間を超える残業の違いについて見ていきましょう。

 

所定労働時間を超え、かつ法定時間内での残業

所定労働時間を超える法定労働時間内の残業については、法律上は割増賃金での残業代は発生しません。ただし就業規則等において割増賃金で支払うという定めをしている場合は、割増賃金の対象となります。

 

法定時間を超える残業

法定労働時間を超える残業は、割増賃金での残業代支払いが必須となります。休日労働や深夜労働(22時~5時の間の労働のこと)となれば、さらに割増賃金が発生し、割増率が増えることとなります。

割増率に関しては、法定時間外労働が

  • 月45時間以内であれば25%
  • 月45~60時間以内であれば25%超(ただし努力義務)
  • 月60時間50%(中小企業は除く)
  • 法定休日労働は35%

となっています。さらに深夜労働に及ぶと、それぞれ50%、50%超、75%、60%となります。

 

残業時間の限度

トラック運転手の残業時間の限度に関しては、労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」、いわゆる改善基準告示に定めがあります。

告示によると、トラック運転手の残業時間の限度は、1か月の拘束時間は原則293時間、1日の拘束時間は13時間となっています。

ただし労使協定を結んだ場合は、1年のうち6か月まで1か月の拘束時間を320時間に延長可能です。ただし1年間の総拘束時間は3,516時間を超えることはできません。

また1日の拘束時間は、始業時刻から24時間以内に連続8時間以上の休息期間を確保するという条件のもと、16時間まで延長が可能です。ただし15時間を超えられるのは、1週間に2回までとなっています。

 

「休息期間は8時間与えれば良い」と覚えているトラック運送事会社の社長や運行管理者さんがいますが、休息期間が8時間で良いのは、週2回までです。

毎日8時間しか休息期間が取れないということは、一日の拘束時間は毎日16時間となり、改善基準告示違反となってしまうので注意してください。

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トラック運送業で固定残業とみなし残業が問題となる要因とは?

固定残業代制度が適法となるには、いくつかの条件があります。まずは就業規則や契約などにおいて会社と労働者が固定残業代制度について合意が成立してなければなりません。

また固定残業代の金額と、それに対応する残業時間数を明示する必要があります。判例によれば、月45時間を超える固定残業代制は無効とされてしまうので気を付けてください。

固定残業代制度についてよくある誤解が、同制度を導入すれば、労働時間の管理は一切必要なくなるというものです。しかし、固定残業代を導入してもしっかり労働時間を把握し、残業が定められた時間を超えた場合は、超過分の割増賃金を支払う必要があります。

この部分に関して、解釈を間違えているトラック運送事業者様が非常に多いので十分注意してください。

 

なお、固定残業制度やみなし残業制度を導入する場合は、就業規則や賃金規定にその内容を記載し、運転者にしっかり説明しておかないと争いになったときに負ける可能性が高くなるので気を付けましょう。

 

トラック運送業で固定残業制にするメリットとは

トラック運送会社が固定残業制を取り入るメリットとしては、

  1. 残業代があらかじめ固定給に含まれているため、残業代計算の負担が軽減されること。
  2. 労働者にとっても、ダラダラと仕事をすることなく、効率的に仕事をするようになること。
  3. 賃金が多いときと少ないときで大きく変動するようなことがなくなること

などが挙げられます。

 

まとめ

以上、固定残業とみなし残業の違いなどについて解説してきました。

トラック運転手の長時間労働が問題となるなかで、未払い残業代請求などの不用意な訴訟を起こされないためにも、給料体系に関しては、ますます合理的なものであることが求められています。

事業継続に支障が出ないように、法令にのっとった就業規則や賃金規定を作成するようにしましょう。

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運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

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