働き方改革で労働時間の把握が義務化。注目すべきポイントは

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働き方改革で労働時間の把握が義務化。注目すべきポイントは

kglo-kawai

運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

働き方改革の一環として労働安全衛生法の改正が行われ、2019年4月から「労働時間の状況を客観的に把握する」ことが義務化。これまで問題視されてきた長時間労働の見直しのため、適切な管理が必要とのことから法改正が行われました。

そこで、このページでは、
「これまでの勤怠管理から何がどのように変わるのか?」
「義務化によって今後使用者が行うべきことは何か?」
など、法改正について知っておきたいポイントについて詳しく解説していきます。

働き方改革における労働時間の把握義務化の目的とは


労働時間の把握義務化は「労働者の健康管理」を目的として条文化されました。
なぜなら、日本では近年、過酷な長時間労働が原因で過労死したり、うつ病などの精神疾患を患ったりする人が急増するなど、大きな社会問題となっているからです。

そのため、労働者が健康で安全に働けるための環境を作っていく必要があるとして労働時間の把握が義務化されたのです。

ポイントは労働基準法ではなく労働安全衛生法の改正により定められたこと

労働時間の把握による残業代の適切な支払いも大切ですが、何よりも大切なのは過労死や精神疾患を防止するための労働者の健康管理を重視していくことです。そのため、労働時間の把握義務は労働基準法ではなく労働安全衛生法の改正により定められました。

改正前と改正後の違いについては以下のとおりです。

労働基準法第109条(従来の法律)

これまでは、労働時間の管理義務に関する条文規定はなく、労働基準法109条において

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。
(労働基準法より引用)

といったような、保存義務がある賃金台帳への労働時間の記入による「間接的な義務化」となっていました。

ほかにも「労働時間の適正な把握のためのガイドライン」において使用者が講ずべき措置を具体的にしていましたが、ガイドラインは行政指導の基準にはなるものの、法的拘束力がないことから、各企業が独自のやり方によって勤怠管理をしていました。

その結果、ずさんな勤怠管理による長時間労働や残業代の未払いなどの問題が起こっていたのです。改正前のポイントは以下のとおりです。

労働時間の把握に関する法的根拠や基準がなかった
労働者の健康管理ではなく、残業代の未払い防止のための給与計算を重視
労働時間の把握は一般労働者が対象で、裁量労働制の適用者は対象外

労働安全衛生法第66条8の3(新たな法律)

この度の法改正により労働安全衛生法第66条8の3において、

事業者は、第66条の8第一項(注1)又は前条第一項の規定による面接指導(注2)を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者(注3)を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。(「労働安全衛生法より引用)

というように、労働時間の把握の義務化に関する新たな条文が追加されました。
わかりやすく言うと、「長時間労働者には医師の面接指導が必要だから、ルールにしたがって労働時間の把握をしなさい」ということです。

これにより、長時間労働が問題となった場合には医師との面談を行わせなければならなくなったため、これまで曖昧だった法的根拠が明確になりました。また、これまで一般労働者のみ対象となっていたものが、裁量労働制の適用者や監督管理者にも把握義務が適用されることとなりました。

このように法改正によって残業代の未払い防止を目的にしていたものが、労働者の健康管理を目的としたものへと大きく変化したのです。

上記をまとめると以下のとおりです。

条文化され法的根拠が明確になった
残業代の未払い防止から労働者の健康管理を重視
裁量労働制の適用者や監督管理者も対象になった

(注1) 第66条の8第1項:長時間労働者の医師の面接指導
(注2) 前条第1項の規定による面接指導:「新たな技術、商品または役務の研究開発にかかる業務」に就く労働者の医師への面接指導
(注3) 次条代第1項に規定する者:特定高度専門業務・成果型労働制の対象労働者

労働時間把握の義務化で使用者が行うべき2つの措置とは


法改正によって使用者が行うべき措置として、「労働時間の客観的な把握をする」こと、そしてそのための「労働時間把握のルールを整備する」ことの2つが挙げられます。以下でそれぞれの内容について解説していきます。

労働時間の客観的な把握をする

労働時間の客観的な把握に関して、厚生労働省令では

タイムカードによる記録
パーソナルコンピューター等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法
その他の適切な方法

によって労働時間の状況を把握しなければならないとされており、各企業はそれぞれに合った方法で対応しなければなりません。

労働時間把握のルールの整備をする

対応するにあたっては、各企業の業務や職場環境にあったルールの整備が重要となります。どのようなルールにするかについては以下のような方法が挙げられます。

勤怠管理システムと個別申告を併用する

タイムカード等の勤怠管理システムを導入し、これらの記録をメインに扱いながら、通常とは異なることが起こった場合に、本人の申請または上司の現認により労働時間を補正する方法です。これには勤怠管理システムだけに頼るのに比べ、柔軟に対応することができるメリットがあります。

タイムカードの打刻時間を労働時間とみなす

残業代の未払いや労働時間の漏れの心配がありません。ただし、この方法の場合、業務終了後の雑談など業務とは関係ない時間も残業代の対象になる恐れがあります。そのため、固定残業代を導入するなどの対策を取り入れるのもいいでしょう。

各自のスマートフォンやパソコンからリアルタイムで打刻をする

出退勤時間ではなく、業務開始・終了時にスマートフォン、パソコンで打刻する方法です。出退勤時間の打刻では業務に関係のない時間もカウントされ、余計な残業代が発生する恐れがありますが、この方法であればより正確な労働時間の把握が可能となります。

残業申告書による事前承認を要するルールを確立する

長時間労働が問題となる一方、生活残業など不正に残業代を稼ごうとするケースも多くあります。こうした不正を防ぐためにも残業申告書による事前承認をルールとして取り入れることも重要な対策のひとつです。

まとめ

法改正によってこれまでよりも労働時間に関するルールが厳しくなくなりました。しかし、これもすべては労働者が健康で安全に働ける環境を作っていくために必要な対策です。

今後は各企業において社内ルールの見直しと従業員への徹底のほか、新たなシステムの導入など柔軟な対応が必要となります。働き方改革を機にぜひクリーンな経営を目指していきましょう。

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