毎年秋ごろになると話題になる「最低賃金」。この最低賃金をよく理解していないために、会社と従業員の争いに発展するケースも少なくありません。経営者であれば労使の争いにパワーを使うようなことは避けたいですよね。
そこで、この記事では、最低賃金について知っておくべきことをわかりやすく解説いたします。まずは、最低賃金とはそもそも何かというトピックから見ていきましょう。
最低賃金とはそもそも何か
最低賃金とは、正社員やアルバイトなどの雇用形態を問わず雇い入れた労働者に対して、最低限支払うべき時間給のことです。
最低賃金に関することは、「最低賃金法」という法律で詳細に定められており、とりわけ重要なことは、使用者は最低賃金の適用される労働者には最低賃金額以上の賃金を支払わないと法律違反になってしまうということです。
使用者と従業員の間で労働条件などの取り決めを結ぶことのできる「労使協定」においても、最低賃金を下回る賃金を定めた協定は無効となると定められています。
詳細は以下のとおりです。
最低賃金法第4条第1項、第2項
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
トラック運送会社ではよくあることですが、「うちの会社の仕事は利益が少ないから、これぐらいの時給で良いだろう」と社長の裁量で決めた時間給が最低賃金を下回っていたら、法律違反になってしまうので注意しましょう。
2種類の最低賃金について理解する
最低賃金は各都道府県労働局長が決定するもので、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。以下で各々について詳しく見ていきましょう。
地域別最低賃金
地域別最低賃金は、職種にかかわらずどの労働者にも平等に当てはまるものです。名前のとおり地域(都道府県)により最低賃金額が違うため首都圏とそれ以外の地域ではかなりの格差が見られます。
2019年度地域別最低賃金においては、東京が1,013円と最も高く、沖縄・九州・鳥取など中国地方の一部が790円と最も低くなっており、223円もの格差が生じていましす。
特定最低賃金
特定最低賃金は、特定の職種に対して定められるもので、各都道府県ごとに対象となる職種が異なります。ただし特定最低賃金が地域別最低賃金より低額な場合は、地域別最低賃金が適用されます。
最低賃金が適用される対象者について
では、最低賃金が適用される対象者は誰かというと、雇用形態や呼び方に関係なく、すべての労働者に適用されます。
したがって、「正社員より簡単な仕事をするアルバイトだから、あなたの時給は500円」という取り決めをしてはいけないということです。
派遣労働者の最低賃金はどうなるの?
派遣労働者の最低賃金については、派遣元の所在地ではなく、派遣先の所在地の最低賃金が適用されます。
例えば、派遣元となる会社は岐阜県で、派遣先の会社は愛知県という場合、派遣労働者に岐阜県の最低賃金を支払ってはいけないということです。
最低賃金の対象となる賃金とは
最低賃金の対象となる賃金は、所定内給与のうち、
- 基本給
- 精皆勤手当
- 通勤手当
- 家族手当以外の諸手当
が該当します。
どのようにして最低賃金は決まるのか
最低賃金は、まず研究者からなる公益委員、労働者側委員、使用者側委員によって構成される中央最低賃金審議会の審議によって、引き上げの目安が決定されます。
さらに同様の委員によって構成される地方最低賃金審議会によって、各地域の実情を踏まえた審議、答申がなされ、最終的に各都道府県労働局長が決定します。
給与が最低賃金額以上かどうかを調べる方法
時間給は、そのまま最低賃金と比較すればわかるため月給、日給、出来高払いのケースを解説します。
日給の場合
日給を1日の所定労働時間で割った額が最低賃金(時間額)を超えているかどうかをチェックします。
月給の場合
月給を1か月の平均所定労働時間で割った額が最低賃金(時間額)を超えているかどうかをチェックします。
出来高払い(歩合給)の場合
賃金の総額を総労働時間で割った額を最低賃金(時間額)と比較してチェックします。
トラック運送会社では、歩合給制を採用している企業が多いため、自社の給料が最低賃金を下回っていないかしっかり確認しておきましょう。
使用者の義務と罰則について
給与を支払う側の使用者は、最低賃金以上の賃金の支払い以外に、最低賃金に関する事項について労働者にどのような義務を負うのでしょうか。
また最低賃金に関する規定に違反した場合どうなるのでしょうか。
以下で詳しく見ていきましょう。
最低賃金の周知義務
最低賃金法第8条では、以下のように最低賃金の周知徹底を図る義務を規定しています。
最低賃金の適用を受ける使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければならない。
「就業規則は事務所内に保管しており、従業員に見せたことがない。」という企業も多いようです。
しかし、近年の裁判では、就業規則を従業員に見せたことがないという場合、周知徹底義務違反であるという判例が出ています。
労使で争いになったときに不利にならないよう、従業員には就業規則に目と通させるようにしておきましょう。
最低賃金の罰則について
最低賃金法第40条では、以下のように規定されています。
第四条第一項の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)は、五十万円以下の罰金に処する。
つまり、最低賃金に未たない賃金しか支払わなかった場合、50万円以下の罰金が科せられるということです。
ただし船員に適用される以外の特定最低賃金違反のケースに関しては、30万円以下の罰金となります。(労働基準法第24条、第120条)
また、前述した最低賃金の概要を営業所の見やすい場所に掲示し、労働者に周知させる義務に違反した場合は、30万円以下の罰金が科せられます。
まとめ
最低賃金とはどのようものかについて解説してきました。働き方改革の波が押し寄せる中で、最低賃金を下回る賃金しか支払っていない会社はないと思います。
しかし、賃金規定は1回決めたら終わりではありません。最低賃金は毎年上昇する一方なので、自社の賃金が最低賃金を下回っていないか、毎年チェックする必用があることを忘れないようにしてください。
気がついたら最低賃金を下回る給与を支払っていたということにならないように注意しましょう。