トラックドライバーの働き方改革

働き方改革

働き方改革でトラックドライバーの休み・有給休暇や残業時間はどうなる?

kglo-kawai

運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

労働環境の改善と労働生産性の向上に向けた改革として、2019年4月1日より働き方改革関連法案の一部が施行されました。

今後も順次施行が予定されていて、運送業界においても長年の課題である「長時間労働の常態化」や、「少子高齢化による労働人口の減少」の改善に向けた様々な対策に取り組みだしています。

この記事ではとくに「トラック運送業における長時間労働の常態化」にスポットをあてて、トラックドライバーの休み・有給休暇と残業の実態と、働き方改革によって今後どのように変化していくのかについて詳しくお伝えしていきます。

 

トラックドライバーの休みの実態とは?

運送業界では若年層の働き手の減少やドライバーの高齢化など、トラックドライバーの人手不足が深刻化している状況です。

さらに近年、ネットショッピングの利用者数が急増していることから、人手不足にますます拍車がかかり、ドライバーひとりあたりの業務負担が増加。その結果、長時間労働が常態化するなど大きな問題となっています。

そうなると当然、ドライバーの休みにも影響が及びます。国土交通省が平成 27 年 9 月 14日(月)~20 日(日)の 7 日間にかけて調査を行った「トラック運送状況の実態調査結果」によれば、調査期間の7日間のうち休日がなかったドライバーの割合が9.8%と、全体の約1割近くにも及んでいたことが明らかになり、ドライバーの過酷な勤務状況が浮き彫りとなりました。

 

トラックドライバーの有給取得率

過酷な勤務状況下にあるトラックドライバーであれば、有給休暇の取得も難しくなることは容易に想像することができます。実際にトラックドライバーの有給取得率は非常に低く、その数字は33.6%と業界最下位にとどまっています。

日本企業の有給取得率が50%であることを踏まえると、トラックドライバーの有給取得率がいかに低いのかがわかるのではないでしょうか?

 

ちなみに、世界19か国の有給取得率を調査した「有給休暇・国際比較調査2018」によると、日本の有給取得率は最下位となっていて、2番目に低いオーストラリアと比べても20%もの差があるなど世界的に見ると圧倒的に低くなっています。

取得率のトップはブラジル、フランス、スペイン、ドイツの4か国で、それぞれ30日間の支給日数を100%取得しています。

  •  日本(有給取得率50%/取得日数10日)
  •  オーストラリア(有給取得率70%/取得日数14日)
  •  ブラジル、フランス、スペイン、ドイツ(有給取得率100%/取得日数30日)

このように有給取得率の問題は日本全体の課題であり、さらにその中でも最下位にとどまっている運送業界にとっては、より一層の改善に向けた対策が求められます。

荷待ち時間

 

働き方改革でトラックドライバーの有給休暇の確認が義務化

有給休暇の取得率向上のため、働き方改革関連法案の施行により2019年4月1日より年5日の有給休暇の取得が義務化。各企業は年10日間以上の年次有給休暇が付与されているすべての労働者を対象に、「いつ有給休暇を使うのか」を確認しなければならなくなりました。

対象となるのは以下に該当する労働者となります。

  •  入社後、6か月が経過している正社員またはフルタイムの契約社員
  •  入社後、3年半以上経過している週4日出勤のパート社員
  •  入社後、5年半以上経過している週3出勤のパート社員

有給休暇の義務化に違反した場合には罰則があり、企業は30万円以下の罰金に課せられます。この罰則は労働者ひとり一人が対象となっているため、例えば5人の労働者に有給休暇を与えていなければ、最大150万円の罰金が科せられる可能性があります。

これまで、日本企業では上司や同僚に気を使ってなかなか有給を取得できない風潮がありましたが、義務化されたことで最低限の有給が保証されるようになったのは大きな進歩と言えるでしょう。

「トラック運送会社で有給取得などありえない」
「有給を取りたいならドライバーなど務まらない」

トラック運送業界全体でいまだにそのような風潮があるのは事実です。しかし、時代の変化とともに会社も変化しないと勝ち残れない時代が本当にやってきたのではないかと思います。

 

トラックドライバーの残業の実態とは

過度な残業による長時間労働が常態化している背景には、人手不足や業務負担の増加のほかにも、業務中に起こる「荷待ち時間」が大きく影響しています。

「荷待ち時間」とは、荷物の積み下ろしの間に待機する時間のことで、いくらドライバーが時間短縮を意識してスムーズに目的地まで荷物を運んだとしても、荷主側の都合で順番や指示が左右されるため、ドライバーは待機時間をコントロールすることができません。

そのため、無駄な待機時間が増えてしまい、場合によっては3時間や4時間の荷待ち時間も珍しくありません。また、こうした荷待ち時間を労働時間ではなく休憩扱いにしているトラック運送業者が多く、サービス残業化してしまっていることも大きな問題と言えます。

 

トラックドライバーの労働時間は平均210時間?

厚生労働省による賃金構造統計調査によるとトラックドライバーの労働時間は、22日勤務した場合、「所定内労働時間176時間+残業時間34時間=合計210時間」となっています。

残業は1日あたり2時間ほどの計算になるため、それほど多くない印象ですね。ただし、この調査は一部の企業が任意で申告するものであり、待機時間を労働時間に加えていないなど、労働時間を短く申告している可能性もあります。

実際、これとは別のトラックドライバーへ調査したものによると平均労働時間は240時間を超えており、賃金構造統計調査の結果よりも長くなっています。

なかでも長距離ドライバーの労働時間は1日平均16時間を超えており、1か月で約310時間にも及び、残業時間は過労死ラインの80時間をはるかに超える130時間以上となっています。

 

長時間労働で過労死。労災認定されるケースも(2018年9月)

近年、社会問題にもなり度々ニュースでも取り上げられている過労死ですが、運送業界においても長時間労働による過労死で労災認定されたケースがありました。

亡くなったドライバーの残業時間は直前の3か月間いずれも130時間を超えていたそうで、繁忙期には睡眠時間が1時間半ほどしか取れず、勤務中に意識を失い致死性不整脈で亡くなったとのこと。

会社側は長時間労働を強いただけでなく、実態のない関連会社をつくり、亡くなったドライバーを両方の会社で雇っていたようで、一方の会社での労働時間を副業扱いとし、社会保険料の負担や労働時間規制の回避するために法人格を乱用していたのではないかと問題視されていました。

 

労災認定には副業先と本業の労働時間を合算しないというルールがあり、亡くなったドライバーは一方の会社の労働時間を副業扱いとされたため、認定作業が長期化。申請から10か月後にようやく認定されました。

この運送会社にはほかにも色々な事情があったのかもしれません。しかし、普通に考えれば睡眠時間1時間半の日が続けば身体に支障をきたすことは予想がつくはずで、こうした行為がトラック運送業界全体のイメージを悪くする要因の一つであるため、許しがたい行いと言えます。

長距離トラック

 

人手不足が続くトラック業界|残業依存への改革が最も重要

2018年に労働基準監督署がトラックや・バスなどの自動車運転者が働く事業所を調査したところ、約83%が違反をしていたことがわかりました。

主な違反内容は

  •  労働時間(55.5%)
  •  割増賃金支払い(21.1%)
  •  休日(4.4%)

という順となっており、ほとんどが残業・長時間労働の問題です。原因はやはり、人手不足が長期間にわたり続いていることだと言えるでしょう。

この先、こうした状況を変えていくためには労働条件を改善し、長時間労働を見直すなど残業依存への改革が重要になってきます。

具体的には

  •  待機時間の削減
  •  労働時間の管理の見直し
  •  若年層、女性の働き手の確保

などの対策に各事業所が積極的に取り組んでいくことが求められます。

 

まとめ

トラック運送業界の現状は、人手不足によって長時間労働を強いられ、休みもまともに取れないなど過酷な状況となっています。

今後は働き方改革によって、2024年4月から「時間外労働の上限規制」が適用されるなど、トラックドライバーの労働環境は改善される方向へと進んでいきます。

しかし、まだまだ課題も多く、荷主も含めた物流業界全体での意識改革と取り組みが必要となるでしょう。

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運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

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