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労働基準法

トラック運送会社が無事故手当を支給するときの8つのポイントとは?

kglo-kawai

運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

トラック運送会社であれば、ドライバーに対して「無事故手当」を支給しているという企業が多いはず。その一方で無事故手当の支給・不支給をめぐって労使のトラブルを経験したという企業も多いのではないでしょうか。

安全運転を根付かせて事故削減を目的とする無事故手当の支給ですが、法律上の知識や支払時の注意点を認識していないと会社運営の安全が脅かされることになりかねません。

この記事は、無事故手当についてよく理解して輸送の安全も会社運営の安全も守れるようにしていただけるような内容になっております。

トラック運送会社の経営者や経理担当者様はご一読することをお勧めします。

 

 

労働基準法に無事故手当の規定はあるのか

結論から言うと、労働基準法には無事故手当について規定していません。ドライバーが働いた対価として、会社は基本給や残業手当を支払う義務があります。しかし、無事故手当については支払いの義務はなく、支払わないことは違法ではありません。

つまり、トラック運送会社だから、必ず「無事故手当」を賃金に含めなければならないわけではないということです。

 

運送会社の無事故手当に関する3つのポイント

無事故手当の支給は、トラック運送業界に昔から根付いていますが、そこにひそむ問題や注意点を知っておくことにメリットはあってもデメリットはありません。

ここからは、運送会社がトラックドライバーに支給する無事故手当に関して8つのポイントについて具体的に見ていきましょう。

 

ポイント①|事故時の従業員への損害賠償請求について理解しておく

事故時の損害賠償に関して会社と従業員の間で訴訟となった場合、裁判所は原則としてすべての責任を従業員に負わせるべきではないという立場をとります。

従業員に事故の過失があったとしても、従業員は会社の指示によって業務に従事しているからというのが裁判所の見解です。

従業員にどれくらいの責任があるかに関しては、労働条件や業務内容、会社による事故予防措置など、従業員と会社双方の様々な事情を検討して決定されます。

ですので、事故時のトラック修繕費などをドライバーに全額負担させることは基本的に違法をなってしまうということを理解しておきましょう。

 

ポイント②|一方的に賠償金の給与天引きはしない

労働基準法第91条には減給を認める規定がありますが、一方で同法第17条では

使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

加えて、第24条では

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

としています。

 

前借金のみが明記されていますが、損害賠償金に関しても、会社が一方的に給料と相殺させることはできないと解釈されています。

ただし、労働者側が事故時の損害賠償金について給与から相殺されることに合意している場合には、給料からの相殺が有効となります。

 

ポイント③|手当の内容を明文化しておく

会社が無事故手当について雇用契約書や労働条件通知書などの文書に明確に記載していなかったり、従業員へ詳細に周知していなかったりすると、双方で誤解が生じ、問題が起こる要因となります。

給与手当の内容は、運転者に文書で交付すると同時に口頭でも説明をして、認識のずれが生じないようにしましょう。

 

ポイント④|無事故手当の支給は必須ではない

先述したとおり、無事故手当の支給は基本給や残業手当などと違って必須ではないため、支給しなくても違法ではありません。

「ドライバーの事故防止には無事故手当の支給は運送会社だから当たり前」

こんなバイアスから無事故手当を支給している場合は、自社にマッチした手当なのか、運転者にも会社にもメリットのある手当なのかということを今一度検討してみると良いでしょう。

 

長距離ドライバー

ポイント⑤|雇用形態による無事故手当支給の差別化はしない

無事故手当を支給する場合は、全ドライバー一律の金額にしましょう。ドライバーごとに支給額を変えることは違法となるので注意してください。

2018年6月の最高裁判決では、正社員でも契約社員でも職務の内容は異ならず、安全運転、事故防止の必要性も異ならないとして、転勤があることや中核の人材であるという事情によって、無事故手当の支給額を差別化することは違法としています。

 

ポイント⑥|従業員への損害賠償請求額が妥当かどうか確認する

ドライバーが起こした事故への損害賠償は、すでに述べたように全額ドライバー負担が認められるものではありません。ドライバーの故意=わざと起こした損害や横領行為などは別ですが、ドライバーと会社双方の様々な事情を鑑みて、請求額の妥当性が決まります。

経営者としては、ドライバーが起こした事故については全額を賠償させたいと思う気持ちはわかります。しかし、事故を起こしたら翌月の給料から賠償金全額をすべて天引きするのは違法になるのでくれぐれも注意してください。

 

ポイント⑦|無事故手当の内容を賃金規定や就業規則に入れる

無事故手当に関して会社と従業員とのトラブルを避けるためにも、賃金規定や就業規則において、事故を起こした場合、

  • 全額支給されないのか
  • 事故の規模の大小を問わず支給あるいは減額になるのか
  • どれくらの期間支給または減額されないのか

など、しっかり規定してください。一番よくないのは、文書化していないためその場の感情で都度説明が変わってしまうことです。会社と従業員の間で共通理解を持たせるためにも必ず無事故手当について文書化しておきましょう。

 

ポイント⑧|誤解防止のためにドライバーの理解度を確認する

上記で説明したように、無事故手当について賃金規定や就業規則で明確に文書化することは必須事項となります。ただし、文書化しただけではまだ足りません。

ドライバーに対して無事故手当について記載した文書を見せながら、しっかりと内容を説明し、ドライバーが理解したかどうかの確認作業を怠らないようにしてください。

人は見たり聞いたりした話の内容を自分の都合の良いように解釈する生き物です。これは脳みその構造上の問題ですので仕方がありません。

 

自分の話したことは理解100%理解されていない。そう思って、ドライバー本人から無事故手当の内容を説明させてみるようにして、その理解度を確認するようにしましょう。

 

 

まとめ

運送業における無事故手当についての問題点や注意すべき点などを解説してきました。 事故防止の観点からも無事故手当の支給は有効かと思います。ただし、関連する法令を理解しておかないと争いに発展したときに痛い目にあう可能性を秘めているのも事実です。

慣例的に無事故手当を賃金内容に盛り込んでいるというトラック運送会社様も、今一度その内容を見直してみると良いかもしれませんね。

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運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

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