「労働基準法」は1947年に制定された労働条件に関する基準を定めた法律です。2018年には10年ぶりの法改正がなされ、2019年4月より施行されました。
このように労働条件の改正が進んでいますが、従業員に違法な時間外労働を強いたとして逮捕されるような事件が絶えることはありません。
トラック運送業においては、従業員の長時間労働は居眠り運転や交通事故、過労死などの労働災害を引き起こしかねません。2019年1月千葉県のあるトラック運送業者では、従業員に法定労働時間1週間40時間のところ、最大約24時間を超える時間外労働をさせ、死亡事故を起こさせたとして書類送検される事件が起こっています。
長時間労働になりがちな運送業においては、特に労働基準法をしっかり踏まえて労働管理を行わなければなりません。
そこで、このページでは、トラック運転手の仕事と労働基準法の改正などについてザックリ解説していきます。運送業に関わる事業者様はご参考にしていただければ幸いです。
トラック運転手の仕事に関する労働基準法の改正
2018年7月、労働基準法の改正を含む「働き方改革関連法」が成立し、改正労働基準法は2019年4月1日に施行されています。この改正で労働基準法はどのように変わったのか、トラック運転手の仕事に関係する改正のポイントをみていきます。
より理解を深めるために、まずは、労働基準法改正前のトラック運転手の労働時間の問題点から見ていきましょう。
労働基準法改正前の問題点
自動車運転業務においては、時間外労働が月60時間を超える労働者の割合が全体に比べて高いことが顕著でした。厚生労働省による法改正の参考資料によると、全体では大企業8.1パーセント、中小企業4.4パーセントのところ、自動車運転業務においては大企業40.6パーセント、中小企業42.2パーセントとなっています。
2016年度の脳・心臓疾患の労災認定件数においては、自動車運転従事者が34.2パーセントも占めており、長時間労働の影響が推定されます。
労働基準法改正後の問題点
法改正により、月60時間を超える時間外労働の割増賃金が引き上げられ、年次有給休暇5日以上の取得も義務化されました。そして残業時間の上限規制と罰則も設けられています。
しかし自動車運転業務においては、ほかの業種に比べて規制が緩いのが特徴的です。トラック運送業の労働組合からなる運輸労連は、緩い規制を見直すよう180万を超える署名を集めましたが、結局、見直されることはありませんでした。
時間外労働時間の制限は、ほかの業種で年720時間ですが、自動車運転業務は年960時間となっています。また一か月の労働時間を延長させ、休日労働の時間を100時間未満とする規定、労働時間を1か月につき45時間延長させることができる月数の制限も適用されません。
ただし自動車運転業務においても将来的には年720時間を目指すとの規定が含まれており、今後の改正が注目されます。
しかし、たとえ残業時間が規制されたとしても、全体の業務量は変わらないものと想定されます。業務量が変わらないとすれば、残業時間ではない部分にそのしわ寄せが来るかもしれません。また労働者にとっては残業時間が減ることによる残業代の減少も考えられます。
トラック運転手の拘束時間・休憩時間・荷待ち時間などについての整理
トラック運転手の時間管理においては、どのような点がポイントとなるのでしょうか。
以下では、
- 拘束時間
- 休憩時間
- 荷待ち時間
- 休息時間
について整理していきます。
拘束時間
拘束時間は使用者の監督下にある時間であり、労働時間と休憩時間からなります。拘束時間は、原則1日13時間以内、延長する場合は最大16時間です。15時間を超えてもいい回数は週2回以内と定められています。
1か月の拘束時間は原則293時間で、延長する場合は320時間が限度です。年間の拘束時間は3,516時間以内と定められています。
休憩時間
休憩時間は、業務の合間に身体を休める時間や食事をする時間ですが、会社の指示の下に動く拘束時間に含まれ、単に自由な時間ではありません。
休憩時間に該当するかどうかに関しては、
- 駐車して車から離れられるか
- 積荷を監視する必要があるか
- 自由に時間を使えるか
- 作業開始時刻が定まっているか
などから総合的に判断する必要があります。
荷待ち時間
トラック運送業においては、どうしても荷待ち時間が発生します。そして、荷待ち時間はトラックが大型になればなるほど長くなる傾向にあります。また輸送品の種類によっても荷待ち時間が変わり、荷待ち時間の平均が長い品としては農水産品、金属機械工業品が挙げられます。いずれにしても無駄な荷待ち時間が発生しないように、適切な運行計画と時間管理が必要です。
荷待ち時間は、例えば毎日1時間だとしても、月に直すと20時間以上に及びます。これがトラック運転手の長時間労働の一因となっています。なかには荷待ち時間を労働時間に含めないと主張する事業所もあり、残業代が出ず、運転手の待遇を悪化させることとなります。
休息期間
拘束時間以外の時間を「休息期間」と言います。1日の休息期間は最低でも8時間以上必要であり、休息期間が9時間未満となる回数は、週2回以内でなくてはなりません。
トラック運転手に労働基準法の改正がもたらす効果とは?
ここからは労働基準法の改正は、トラック運転手の業務にどのような効果をもたらすのかについて、
- 長時間労働・サービス残業の抑制
- 給与の改善(時間外割増賃金引き上げなど)
- 休憩・休日の確保(1日1時間の休憩や有給休暇消化の義務付けなど)
という観点からご説明します。
長時間労働・サービス残業の抑制
トラックドライバーの時間外労働時間に関しては、2024年3月までは現行制度が適用されますが、同年4月以降は、月平均80時間以内(休日労働を含めず)、年960時間以内(休日労働を含めず)に制限されます。
給与の改善(割増賃金引き上げなど)
改正労働基準法では割増賃金=残業時間代などの引き上げもなされています。従来、時間外は25パーセントの割増賃金でしたが、2023年4月から月60時間を超えた分は、50パーセントの割増賃金となります。
これは、長距離運行や荷待ち時間の長い貨物を運ぶトラック運送事業者にとって大きな課題となっていくでしょう。
休憩・休日の確保(1日1時間の休憩や有給休暇消化の義務付けなど)
改正労働基準法では、有給休暇消費が義務付けられます。2019年4月から年休付与日数10日以上の労働者は、5日分を必ず消化しなければなりません。年休付与に関しては、雇い入れ日から6か月以上の継続勤務、全所定労働日の8割出勤が条件となっています。
人員の少ないなかで、365日稼働するコンビニ配送などを行っているトラック運送事業者のとっては、どのように有給を消化させるか非常に大きな問題となるでしょう。
まとめ
トラック運転手に関する労働基準法の改正、トラック運転手の拘束時間・休憩時間・荷待ち時間などについての整理、トラック運転手に労働基準法の改正がもたらす効果について解説してきました。
トラック運送事業者様においては、労働基準法などにおける労働時間の規定や解釈など疑問に思われることが多々あるかもしれません。
労働基準法、残業時間に関するご相談は、名古屋市は名駅の運送業支援専門「行政書士法人シフトアップ」までお気軽にご相談ください。