2019年4月1日の働き方改革関連法案の一部施行により、日本のすべての企業がこれまでの働き方を見つめ直し、労働環境の改善や労働生産性の向上に向けての取り組みに注力しています。
トラック運送業界も例外ではなく、これまで問題視されてきた長時間労働や人手不足の改善に向けた取り組みに着手しています。
「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」は今後の運送業界が目指すべき目標に向けて取り組むべき対策をまとめたアクションプランであり、全日本トラック協会によって定められたものです。
この記事では、運送業界の現状と、今後の改善に向けたアクションプランの具体的な内容についてわかりやすく解説していきます。
まずは、トラック運送業界の現状から見ていきましょう。
トラック運送業界の現状
少子高齢化の影響もあり、現在はどの業界も人手不足に頭を抱えている状況です。そのなかでもトラック運送業界はとくに人手不足が深刻化していると言えるでしょう。
その原因には若年者の車離れや過酷な労働環境というイメージによって敬遠されていることが挙げられます。
ここでは、運送業界の現状を知ってもらうため、とくに問題視されている「ドライバー不足」と「ドライバー年齢の高齢化」について詳しく見ていきます。
ドライバー不足|有効求人倍率は2.84倍
仕事を探している人に対して、一人あたり何件の求人があるかを示す数値として「有効求人倍率」というものがあります。
皆さんもニュースなどで耳にしたことがあるかと思いますが、一般的にこの数字が高いほど企業は労働者を求めているということであり、言い換えれば「人手が足りていない」ということになります。
ドライバーの場合、この有効求人倍率が平成30年1月の厚生労働省の調査において2.84倍となっていました。
今ひとつピンと来ないかもしれませんが、この数字は同じ時期の全国の有効求人倍率1.52倍と比較すると約1.86倍も高くなっており、いかに人手が足りていないかが如実に表された結果となっているのです。
ドライバー年齢の高齢化|平均年齢は47歳
新たな人材が確保できない弊害は人手不足だけでなく、労働者の高齢化にも影響を及ぼしています。
現在のドライバーの平均年齢は47歳と非常に高齢化しており、とくに29歳以下の若年層の占める割合に関しては、全産業が16.3%であるのに対し、運送業界では9.1%と全体の10%以下に落ち込んでいる状況です。
反対に、最も多い年齢層は40~54歳で、その割合は全体の半数近くである約45.2%を占めており、全産業の34.7%と比べて高い数字となっています。
このまま高齢化が加速してくと、将来的にはドライバーの大量定年やそれに伴う物流崩壊など厳しい現実が待ち受けているため、今後に向けた運送業界全体での早急な対策と改善が必要不可欠となっています。
トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプランとは?
運送業界の現状を改善していくためには業界全体で働き方改革を推進していく必要があり、その取り組みの一つとして定められたのが「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」です。
ここからはアクションプランがどういった内容のものなのかについて解説していきます。
アクションプランの基本方針
アクションプランには以下の「6つの基本方針」が掲げられています。
- 働き改革による時間外労働の上限規制に対応するために長時間労働を是正する
- 若年者をはじめとする人材確保のためドライバーの処遇や労働環境の改善に努める
- 物流条件の調整やコスト負担等の理解促進のため、荷主等の関係者と緊密なコミュニケーションをとる
- 場当たり的な対策ではなく、目標達成に向けて継続して取り組む
- 事業者だけでなく、全ト協を含めた業界団体も一丸となって取り組む
- トラック輸送サービスを維持・強化するため、荷主や関連業界とともにライフラインとしての責務を継続するための行動を速やかに起こす
アクションプランの達成目標
働き方改革関連法案の施行から5年後の2024年4月から、自動車の運転業務に罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されます。
この罰則規定では時間外労働が年960時間を超えてはならないとされており、アクションプランでは適用開始年度までに960時間を超える事業者の割合を0%にすることを目標として掲げています。
0%に向けた各年度でのアクションプランの目標数字は以下のとおりです。
- 2021年 → 25%
- 2022年 → 20%
- 2023年 → 10%
- 2024年 → 0%
なお、2017年に発表された厚生労働省の調査結果によると、長時間労働などの法令違反が約84%の事業所であったとのことで、こうした現状から見るとこの目標は相当高いハードルとも言えるでしょう。
アクションプランの取組内容
アクションプランでは、基本方針と達成目標を掲げたうえで具体的な取り組み内容が以下のようにまとめられています。
労働生産性の向上
人手不足によるキャパオーバーや労働時間の短縮に対応していくため、
- 荷待ち時間、荷役時間の削減
- 高速道路の有効活用
- 市街地での納品業務の時間短縮
- 中継輸送の拡大
に関する内容がまとめられています。
運送事業者の経営改善
労働集約型産業である運送業において、人材確保と業務の効率化、そして生産性の向上は必須で、その解決策として
- ドライバーの処遇改善
- 経営基盤の強化
について詳細がまとめられています。
適性取引の推進
現在の運送業界は、新規参入事業者の増加や景気の悪化によって、多くの事業者が低い運賃・料金で仕事を受注するようになっています。
結果としてドライバーの賃金低下や長時間労働を余儀なくさせている状況です。
今後の輸送サービス維持のためにはこうした状況に対して早急な改善が必要であり、適性取引の推進に向けた対策として
- 書面化、記録化の推進
- 適正運賃・料金の収受
- 多層化の改善
- コンプライアンス経営の強化
などの項目を掲げ、それぞれの取り組み内容についての詳細がまとめられています。
多様な人材の確保・育成
ドライバーの労働環境改善のためには、何よりもまず多くの人材を確保することが重要です。
現在、運送業で活躍しているドライバーは性別も年齢層もかたよっているため、今後は若年者をはじめ多様な人材を積極的に増やしていく必要があります。そのための対策として
- 女性・高齢者も働きやすい職場・会社づくり
- 働きがいのある職場・会社づくり
- 若年労働力確保に向けた取り組みの強化
などの取り組みがまとめられています。
アクションプランの効果をあげるための3つのフォローアップ
アクションプランを策定しても、実際に実行されなければ意味がありません。そのため、アクションプランではより大きな効果を上げるための「3つのフォローアップが用意」されています。
フォローアップ1|モニタリングの仕組みの確立
アクションプランが遂行されて効果を上げているのかを確認するための仕組みを構築し、全ト協、地方ト協が連携して
- ドライバーの賃金
- 労働時間
などのモニタリングを行います。
フォローアップ2|優良事例のPR
アクションプランで掲げた取り組み内容において、先進的取り組みや目覚ましい効果の確認された取り組みに関しては優良事例として収集されます。
そして、これらの成功事例をまとめたうえで、全国の中小トラック事業者に普及していくようPRされます。
フォローアップ3|PDCA
優良事例の情報をもとにして、計画の進捗状況の確認と見直しが行われます。また、必要に応じてアクションプランの修正も行い、目標の早期達成に向けた取り組みへとつなげていきます。
まとめ
運送業界における過酷な労働環境は長期にわたり厳しい状況が続いています。そのため、一口に働き方改革の実現に向けた改善と言ってもなかなか一筋縄ではいきません。
アクションプランを実行し、目標を達成するためには事業者の努力はもちろんのこと、荷主を含めた関係者の協力も不可欠です。
お互いに協力し合いながら少しずつでもいいので改善に向けた取り組みをしていくことが、今後の運送業界を支えていくうえで非常に重要です。