2018年12月に国土交通省をはじめとする各関係省庁によってとりまとめられた「トラック運送サービスを持続的に提供可能とするためのガイドライン」。
このガイドラインには、「法令を遵守しつつトラック運送機能の持続的確保を図るうえでコストが必要になる」ことについて、運送事業者と荷主の共通理解を促すために7つのガイドラインが用意されています。
このページではこの7つのガイドラインの具体的な内容についてわかりやすく解説していきます。
ガイドライン1|コンプライアンスは安全確保等の観点から重要
人手不足による長時間労働が常態化しているトラックドライバーの労働環境は非常に過酷になっています。こうした状況はコンプライアンス違反になるだけでなく、トラックドライバーの業務の安全面にも影響を及ぼします。
そのためコンプライアンスは、トラックドライバーの安全確保の観点から重要となります。ガイドラインでは、トラックドライバーの長時間労働を防止するために「拘束時間」や「休息期間」を定めた改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)を守る義務があるとして具体的な内容をまとめています。改善基準告示の詳細については以下のとおりです。
拘束時間の基準
拘束時間は始業から終業までの時間を指し、原則1日13時間以内となっています。最大でも1日16時間以内で、15時間を超えていいのは週2回までが限度です。また、1か月の拘束時間の合計は293時間以内に収めなければいけません。
休息期間の基準
休息期間は勤務と勤務のあいだの自由な時間のことを言い、継続して8時間以上あける必要があります。
やむを得ない事情で分割して休息を取る場合は、1回4時間以上、合計10時間の休息を取らなければいけません。
運転時間の基準
運転時間は2日平均で、1日あたり9時間以内、2週間平均で、1週間44時間以内でなければいけません。
連続運転時間の基準
連続運転時間は4時間以内。4時間走った場合は30分以上の休憩が必要になります。休憩に関しては4時間のあいだに1回10分以上の休憩を分割して取ることも可能です。
ガイドライン2|「拘束時間」は、点検・回送運行・荷待ち・休憩等の時間も含む
拘束時間については「休憩時間」などを拘束時間と認識していない運送事業者が多いのが実情です。これがコンプライアンス違反につながっていることは否定できません。トラックドライバーの拘束時間には以下のような時間も含まれることを確認してください。
- 運転時間
- 点検・点呼にかかる時間
- 荷積み・荷下ろし時間
- 荷待ち時間
- 荷役時間
- 付帯作業にかかる時間
- 休憩時間
トラックドライバーの拘束時間はトラックを運転時間や荷積み・荷下ろし時間だけではないので注意しましょう。
ガイドライン3|コンプライアンス違反を防ぐために
コンプライアンス違反を防ぐためには、トラックドライバーの長時間労働の改善に向けた業務の効率化を進めていく必要があり、そのためには運送事業者の改善への取り組みに加えて、荷主の理解と協力が必要となります。
ガイドラインではコンプライアンス違反の防止のための対策として、以下のような具体例と取組例についてまとめています。
荷待や荷役時間の長時間化の抑制が重要
トラックドライバーの業務中に発生する荷待ち時間や荷役時間は長時間労働の原因となっており、これが法令違反の温床になっています。コンプライアンス違反を回避していくためには
- トラック受付予約システム等による荷待時間の短縮
- パレット等の機械荷役による荷役時間の短縮
などの取り組みが必要となります。
これらを実現するには荷主の協力が欠かせませんが、荷待ち・荷役時間を短縮することでトラックドライバーの負担軽減にもつながり、コンプライアンス違反を回避することも可能となります。
高速道路等の利用による運転時間短縮等について荷主側の協力が重要
拘束時間のルールを守るためには業務の効率化が必要で、その対策のひとつに「高速道路等の利用による拘束時間短縮」があります。
一般道の輸送は高速道路に比べてはるかに時間がかかるため、拘束時間ルールを順守するとなると
- 交代運転者が必要=余分な人件費がかかる
- 1日戻りでなく、2日間運行とする必要あり=所要時間とコストの増加、効率悪化
などのデメリットが生じます。高速道路を利用することで運転時間は大幅に短縮され、結果として拘束時間ルールを順守することが可能となります。
そのためには運送事業者と荷主のあいだで高速道路の利用ルールや料金の負担割合を明確に定めておくことが重要です。
ガイドライン4|運送に必要なコストがまかなわれることが重要
法令を遵守しながら、運送サービスの持続的な提供をしていくためには、当然ながら様々なコストが発生します。そして、コスト削減に向けた取り組みをしていくにあたっては、運送に必要な経費がしっかりまかなわれることが重要となります。
以下で運送経費について見ていきましょう。
トラック運送でかかる直接費とは
「直接費」とはトラック運送に直接関わりがあるガソリン代や車両代、ドライバーの人件費のことを言います。詳細については以下のとおりです。
運行費
運行費にはガソリンなどの「燃料費」やエンジンオイルなどの「油脂費」、「修理費」や「タイヤ・チューブ費」、ディーゼルエンジンに必要な「尿素水費等」が含まれます。
こうした運行費は距離に比例して増えていきます。
車両費
車両費には、トラックを自社所有する場合にかかる「減価償却費」のほか、リースする場合にかかる「車両リース費」などが含まれます。
人件費
人件費には、「ドライバーの人件費」と「運行管理者・運行管理補助者や整備管理者・整備管理補助者の人件費」が含まれ、それぞれの人件費に対して約2割の「福利厚生費」が発生します。そのほか、「退職金等」も含まれ、人件費に関してはドライバーの労働時間やドライバー数に比例して増えていきます。
自動車関連諸税費・保険料等
自動車関連諸税費については「自動車重量税」、や「自動車税」があり、保険料については「自賠責保険料」や「自動車任意保険料」が含まれます。
トラック運送でかかる間接費とは
「間接費」は、トラック運送に直接かかわらない管理業務に関連する費用のことです。間接費は直接費の3割強に相当し、「役員報酬」や「事務所維持費用」などを含む以下のようなものがあります。
一般管理費
一般管理費にはドライバー以外の「役員や事務員の人件費」のほか、「通信費・交際費」、「事務消耗品」などが含まれます。
施設費
施設費には「トラックの車庫代・駐車場代」、「事務所の家賃」や「倉庫の賃借料」などが含まれます。
事故処理費
輸送中の事故で貨物に損傷を与えてしまった場合などの損害を補填する「貨物保険」の保険料などが含まれます。
租税公課等
「事業税・事業所税」や「登録免許税」、「償却資産税」や「組合費」などの租税公課は間接費に含まれます。
ガイドライン5|国土交通省はルール違反に関する行政処分を強化
コンプライアンスを強化するために国土交通省は以下に関する行政処分の強化を行いました。
違反事業者に対する行政処分の強化
社会保険未加入の場合、
- 一部未加入:10日車
- 全部未加入:20日車
であったのが、行政処分強化により
- 未加入1名:警告
- 未加入2名:20日車
- 未加入3名:40日車
となり、停車日数が引き上げられています。
事業停止を課するトラック車両数を最大5割引き上げ
例えば、処分150日車の場合、営業所あたりの配置車両数が
- 5両:2両×75日
- 10両:2両×75日
- 100両:7両×18日、1両×24日
であったのが、行政処分強化により
- 5両: 2両×75日
- 10両: 5両×30日
- 100両:15両×10日
となり、トラック車両数が大幅に引き上げられました。
監査の強化
コンプライアンスの徹底を図るため、法令未遵守事項が多いことによる指導をしたにもかかわらず改善がされていない場合や、継続的にルールが守れていない事業者に対して重点的な監査が行われるようになりました。
ガイドライン6|荷主勧告制度に基づく勧告
改善基準告示等のルール違反については、これまでトラック運送事業者のみが行政処分を受けてきました。しかし、2017年7月1日より、荷主の関与が発覚した場合には荷主名が公表されることとなりました。
ガイドライン7|荷主都合の30分以上の荷待ちは「乗務記録」に記録する
残業代を抑えるため休憩時間として扱われることが多かった荷待ち時間ですが、荷主都合で30分以上待機した場合は
- 集荷地点等
- 集荷地点等への到着/出発日時
- 荷積み/荷卸しの開始/終了日時
などを乗務記録簿に記録する必要があります。対象となるのは車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上のトラックとなります。
まとめ
少子化や労働人口の減少により、今のままでは運送業界の労働環境は今後ますます悪化していくことが予想されます。
そうなると、運送事業者の仕事が回らなくなるだけでなく、荷主側もトラックの確保が難しくなり希望通りに荷物を届けることができなくなるなどの悪影響が生じます。
そのような状況にならないためにも7つのガイドラインに沿った改善に向けた対策について運送事業者と荷主が協力し合いながら取り組んでいくことが非常に重要になってきます。