トラック運送でワガママ運転者を出さないための3つの予防策

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トラック運送でワガママ運転者を出さないための3つの予防策

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運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

運送会社の社長さんと話しているとよく出るのが、「ワガママな運転者が社長や運行管理者の言うことを聞かなくて困っている」というお話です。

私自信、20代後半から30代後半まで12年運送会社に勤務したときに、言うことを聞かないワガママ運転者をたくさん見たので、その話にはうなずけます。

私が勤務していた運送会社は、配車に文句を言う、現場のルールを守らない、前日深酒をして出勤する、トラックを私用で常態的に使うといった、ワガママ運転者が全体の半数ほどいました。

 

自らも経営者となったいま思い返すと、会社の言うことを聞かない従業員を出さない予防策がまったく無かったわけではないと思います。

そこでワガママ運転者を出さないための予防策について書きました。まず、「ワガママ運転者が出現すると会社がどうなっていくのか」から見て行きましょう。

 

※「ワガママ運転者」とは、会社や現場で決められたルール等を何度注意しても守らない自己中心的な運転者のことを言っています。

 

 

 

言うことを聞かないワガママ運転者が出ると会社はどうなっていくのか?

会社の中に言うことを聞かないワガママ運転者出てくると、会社の調和が乱れ社内風土が悪くなります。具体的には、

  1. 仕事をより好みされて配車が上手く回らなくなる。
  2. 言うこと聞いてくれる運転者から不平不満が出る。
  3. 社長や運行管理者がストレスをかかえる。
  4. 言うことを聞かない運転者同志の仲間意識が強くなる。
  5. 良い運転者が辞めていくか、同調圧力で仲間に取り込まれる。
  6. 未払い残業代を請求される(未払い残業のある会社の場合)

など。

上記すべてのことが起こるわけではありませんが、会社にとってマイナスの出来事が多くなるのは間違いありません。

共通の敵(ここでは会社や社長、運行管理者など管理者層)を持っている者同志は団結力が強くなるため、一種のムーブメントを起こしやすくなります。

例えば、私が勤務していた運送会社では、一人の求心力を持つワガママ運転者が現れ、次々と仲間を増やしていきました。そして、全運転者の3分の1ほどの勢力を作り、未払い残業代請求のムーブメントを起こして会社との訴訟にまで発展しました。

 

 

会社にとって一番痛いのは良い運転者が辞めていくこと

良い運転者とは社会人としての知識を身につけていて、服務態度が良く、なおかつ経営者寄りの考えをしてくれる運転者のことです。

  • 得意先に挨拶ができる
  • 言いたいことがあるときでも分別をわきまえる
  • 急な運行のお願いにもできる限り対応してくれる
  • 出荷場や荷下ろし先からの評判も良い、自分のことより会社の利益を優先する。

このような良い運転者が辞めていくことは会社にとって大きな痛手です。しかし、ワガママ運転者によって社内風土が悪くなると、耐えかねた良い運転者が会社を辞める可能性が高くなります。

良い運転者が辞めて、言うことを聞かない運転者の数が増えると、社長など管理者層と運転者との争いが増えます。

しだいに事務所や休憩室の笑い声は消え、殺伐とした雰囲気になり、結果、会社の活気は失せてしまいます。経営者としては、なんとしてもそのような状態になることは避けたいものです。

 

そのためにも、言うことを聞かないワガママ運転者を出さないための予防策を知っておいてください。以下では、具体的な予防策についてお話します。

 

 

言うことを聞かないワガママ運転者を出さないための具体的な3つの予防策とは?

予防策①|運転者が何を求めているのか知る

一番大切なのは、運転者が何を求めているかを知ることです。人それぞれ求めるものは違いますが、共通しているのは主に以下の2つでしょう。

  1. 自分を認めて欲しい
  2. 労働環境を良くしてほしい

 

 

【1の自分を認めて欲しい】は、自分のことを気にかけて欲しい、話や意見をしっかり聞いて欲しいという人間の根源的な欲求です。これを「承認の欲求」と言います。

自分を認めて欲しいという欲求が、仕事で成果を出して認めてもらうという良い方向へ向かう人もいれば、力づくで言うことを聞かせてやろうと悪い方向へ向かう人もいます。やっかいなのはもちろん後者です。

 

我々人間が自分は認められていないと思うのはどんなときか。

 

それは、他人から無視されたときや自分の話し・意見を真っ向から否定されたとき、相手が自分の思い通りにならないときです。

運送会社を経営していると不条理なことを言ってくる運転者もいると思います。しかし、相手の話をさえぎって自分の意見を言ったり、全力で否定してはいけません。最後まで相手の話や意見を聞いて、なぜその考えに至ったのか質問してみる。その後に自分の意見を言うようにしないと承認の欲求は満たされません。そして、承認の欲求が満たされないと、自分の思い通りにならないという思いが募ります。

相手の話しを最後まで聞いたあとに反対意見をぶつけたとしても、自分の話しを最後まで聞いてくれたと感じれば運転者は少なからず自分のことを認めてくれたと感じるはずです。

もし運転者の話を最後まで聞けない、あるいは聞きたくないという人は、相手に興味関心がない証拠です。まずは、運転者に興味関心を持つことから初めてください。

 

 

【2の労働環境をよくしたい】に関しては以下の2つのことに気を付けてください。

 

 

労働環境で気を付けること①|給料に関して

1つ目はは給料のことです。運送会社の給料で問題なのは、同じ配送ルートで運転者の能力によって作業にかかる時間が違っても歩合給が一律。

あるいは社長の感情に基づく「感覚」で運転者ごとに給与に差を付けている企業が多いことです。これが運転者の不満につながることが実に多いわけです。

実際に運送会社の給与明細を拝見すると、同じルート配送でも運転者によって歩合給が一律であることがほとんどです。

逆に歩合給や日当が違っていても、どんな基準で給与を決めているのかよくわからないことが多いです。社長に理由を聞いても合理的な説明を聞くことができません。これは、社長の「感覚」で給与を決めている証拠です。

 

そこで、私は常々運送会社にも「人事考課制度」を導入するべきだと考えています。人事考課制度とは、社員の能力や勤務態度に対する評価を行う制度です。一般的には評価結果を賃金や配属部署の異動などに活用します。

人事考課制度なんて大手企業のやることだと思うかもしれませんが、小さなコミュニティである中小運送会社ほど人事考課制度を上手く活用すべきです。

なぜなら、小さなコミュニティほど情報共有しやすいからです。例えば、運転者10人の運送会社と、100人の運送会社ではどちらが全員に情報が行き渡りやすいでしょうか。

 

もちろん、10人の方が行き渡りやすいですよね。

もし、悪い情報が全員に行き渡れば、共感する者が出る確率も高くなり、言うことを聞かないワガママ運転者を増やす原因にもなりやすいということです。

人事考課制度の評価項目で一律に運転者を評価し、作業能力や勤務態度の差を給与に反映させれば、給与に不満を持つ運転者は少なくなるでしょう。

 

 

労働環境で気を付けること②|事務所・休憩室の雰囲気に関して

2つ目は、事務所や休憩室の雰囲気です。これを軽視している運送会社も多いですね。実際に、私が監査対策などで関与した運送会社の事務所・休憩室はこんな場所がありました。

  • 常に社長や運行管理者がピリピリして張りつめた空気の事務所
  • タバコの臭いがいつも充満している隔離された薄暗い休憩室。

 

上記に類似する事務所・休憩室のある運送会社は、実際に従業員とのトラブルを抱えていることが多いです。ある運送会社では、社長のいる場所を通り抜けないと休憩室にたどり着けないため、ほとんどの運転者が外で休憩しているということもありました。

事務所・休憩室の雰囲気とドライバーとのトラブルに何の関係があるのかと思う方もいるかもしれませんね。

 

たとえば、あおり運転をされたら気分が悪くなるし、道を譲られたら気分が良くなるというように人の感情は常に外部環境から影響を受けています。

薄暗く無機質な部屋、あるいは機嫌の悪い人と同じ部屋よりも、窓からは日が差して笑い声の聞こえる部屋ではどちらが気分は良くなるでしょう。

多くの運転者は出庫する前や帰庫したときは、運転の緊張感から離れて缶コーヒーでも飲みながらホっと一息つきたいと思っています。そんなときに立ち寄る場所は、居心地の良い空間にした方が良いことは間違いないですよね。

 

 

予防策②|運転者に目的を持たせること

毎日配車を告げられてトラックで荷物の積み降ろしをするだけでは、ゴールのないマラソンを走らされているのと同じ状態です。どこに向かって走れば良いのか教えてもらわなければ安心感を覚えることはできません。

人は目的がないと力を発揮できないし、不安を抱きやすいということです。

 

では、どうするか。

運転者に対して短期で目的を持たせ、それを達成したら何等かの報酬を与えるのが有効な手段の一つです。報酬はお金でなくても構いません。一緒にご飯に行ったり、皆の前で表彰したり色々な方法が考えられます。

重要なのは、目的を達成した=成果を出したことに対する達成感を味わってもらうということです。この会社にいれば達成感が味わえると思ってもらうことが、愛社精神を生みだすことにつながります。

 

私の知り合いの社長が経営していた運送会社では、立ち上げ当初、ワガママ運転者が多くとても困っていました。そこで、チームを作って売上の目的を持たせて、達成したらチームリーダーへ社長が乗っていた自家用車をプレゼントしていたそうです。

定めた目的の達成間を感じてもらうことで、ワガママ運転者の多かったこの運送会社は不満を言わず頑張る運転者が増えたそうです。

 

 

予防策③|コミュニケーションに時間をかける

殆どの言うことを聞かない運転者はコミュニケーション不足から生まれているといっても過言はないでしょう。

私が運転者からよく聞くグチは「社長が何を考えているかわからない」です。これはコミュニケーション不足から起こるすれ違いにほかなりません。

 

「俺の背中を見ろ」的な発想を持っていたり、忙しくて社員と話す時間が取れないという社長は危険です。

 

経営者と従業員という立場の違いはあっても、会社組織とは、結局人と人の付き合いです。

顔を合わせればたわいもない会話のできる仲なら、お互いの価値観や趣味趣向がわかるので何を考えているのかある程度わかりますよね。対して、毎日顔を合わせるのに一言も会話をしない人のことなどわかるはずがありません。

ですから、時間があれば普段から運転者と雑談をするなどして、コミュニケーションをとるようにしましょう。心理学的にも、人は接触回数の多い人には好感を持ちやすいと言われています。

 

私の会社の場合は毎日の雑談はもちろん、月1回従業員と面談を行い、日常生活のことやキャリアについてどうしていきたいのかを聞くようにしています。そうすることで、価値観のすり合わせをして、すれ違いを防いでいます。

もし、運転者とコミュニケーションを取る時間が少ない、あるいは取っていないという方は、すれ違いを防ぐために運転者と話をする時間をもっと持ちましょう。

 

 

まとめ

身勝手で言うことを聞かないワガママ運転者を出さないための3つの予防策についてご説明しました。

一つ目の予防策は運転者が自分を認めて欲しいという「承認の欲求」を満たすこと。そして労働環境を良くして欲しいという欲求を満っていることを知り、対策を取ること。

労働環境に関しては給与に人事考課制度を導入し、事務所の雰囲気に気を付けるようにしてください。

2つ目の予防策は、運転者に目的を持たせて働いてもらうこと。3つ目は運転者とコミュニケーションを取る時間を積極的に作ることでした。

人材不足が深刻化するトラック運送業界。統計では2018年現在、トラック運送会社の人材不足倒産が全業種の中で一位です。これからはいかに言うことを聞かないワガママ運転者を出さないようにするかが会社が成長するカギの一つとなるでしょう。

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