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働き方改革 改善基準告示

改善基準告示とは?トラック運送会社が知っておくこと総まとめ

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運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

トラック運送業様であれば一度は耳にしたことがある「改善基準告示」。拘束時間や休息期間などの規制を定めたものと言うことは知っているが、詳細な内容はよく理解できていないという方が多いかもしれません。

2019年11月の貨物運送事業法の改正により、改善基準告示をよく理解していないと事業継続に与える影響がとても大きくなりました。

そこで、このページでは改善基準告示に関することを総まとめしております。トラック運送業に関わる事業者様は是非ご覧ください。

改善基準告示は自動車運転者のための労働時間などの定め

改善基準告示は、簡単に言うと「トラック運転者の労働条件を守るために定められた労働時間等の基準」のことです。

一般の職種と違い、なぜ自動車運転手には労働条件を守るための基準が定められたのでしょうか。ここからはトラック運送事業者様が理解を深めていただけるよう改善基準告示に関して深堀していきます。

 

改善基準が告示された背景

それまで長時間労働が当たり前だったトラック運送業界。1984年11月運輸総連によるトラックターミナルなどにおける約1万人を対象とした調査では、拘束時間が24時間を超える者が5割強にも及び、96時間以上も1割いました。

労働省は1979年に一日の拘束時間を16時間以内とする通達を出していましたが、同調査では16時間以内としたドライバーは全体の4分の1。この結果を受けて運輸総連は⾃動⾞運転⼿の労働時間の改善基準の法制化を働きかけました。

1989年には自動車運転者の労働時間等の改善のための基準、いわゆる「改善基準告示」が労働大臣告示として出され、その後も改正が重ねられています。

 

改善基準告示の意義

改善基準告示は、自動車を運転して給料をもらうことを職業としている労働者の拘束時間、休息期間、運転時間などの基準を定めることで運転者の過労による交通事故を防ぎ、自動車運転者が安心できる就業環境を確保することに寄与します。

ただし、実態としてトラック運送業界の長時間労働はいまだ改善されていないのが現実と言えるでしょう。

 

改善基準の適用対象となる労働者

改善基準の適用対象となる労働者は、労働基準法第9条に規定されている者で、四輪以上の自動車運転の業務に従事する者を指します。ちなみに、労働基準法第9条では、労働者とは以下のような者を指すと定めています。

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

 

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改善基準告示で特に理解しておくべきポイント

ここからは、改善基準告示に関して、特に理解しておくべきポイントについてみていきます。まずは、労働時間から見ていきましょう。

 

労働時間

労働基準法第32条は、労働時間の上限を週40時間、1日8時間と定めています。その一方で、一定の条件を満たせば、その上限を超える法定時間外労働が認められています。

なお労働時間には作業時間のほか、手待ち時間も含まれます。

 

拘束時間

拘束時間は労働時間と休憩時間を併せた時間のことを言います。拘束時間は、原則1日13時間以内。延長する場合でも、1日最大16時間であり、15時間を超えても良い回数は週2回以内と定められています。

また1か月の拘束時間は、原則293時間。延長する場合、320時間が限度で、年間の拘束時間は3,516時間を超えることはできません。

 

休息期間

拘束時間以外の時間が休息期間です。1日の休息期間は8時間以上であり、休息期間が9時間未満となる回数は、週2回以内でなくてはなりません。

 

運転時間・連続運転時間

運転時間の限度は、2日平均で9時間以内、2週間ごとの平均で44時間以内とされています。連続運転時間は4時間までであり、運転開始後4時間以内、あるいは4時間経過直後に30分以上の休憩をとらなければなりません。

休憩を分けてとる場合は、1回10分以上に分割し、合計30分以上とする必要があります。

 

休日労働

時間外、休日労働の限度は1日最大16時間であり、1か月の最大拘束時間293時間(原則)の範囲内でしか労働させることができません。

休日労働は2週間で1回と定められています。時間外、休日労働を実施するには、労働基準監督署に労働基準法第36条に基く協定届=36協定書を提出する必要があります。

 

フェリー等の特例

運転手がフェリーに乗る場合、乗船時間は原則として休息期間として扱われます。そしてその時間は休息期間8時間(2人勤務の場合は4時間、隔日勤務の場合は20時間)から減らすことができます。ただしその場合でも2人勤務の場合を除き、減算後の休息期間は、フェリー下船時刻から勤務終了時刻までの時間の2分の1を下回ることはできません。

かつては乗船時間のうち2時間を労働時間として扱っていました。しかし2015年9月1日より乗船時間のすべてを休息期間とすることに改正されています。

これにより、例えば8時間の乗船時間がある場合、従来は6時間の休息とみなされ、休息期間は連続8時間とらなければならないため、下船後、2時間の休息をとってから出発する必要がありました。

しかし改正後は8時間の休息とみなされ、下船後すぐに出発できるようになりました。

そのため時間に余裕を持った運転ができるようになり、月間の拘束時間の上限である293時間も遵守しやすくなっています。

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働き方改革と改善基準告示

一般企業では働き方改革関連法による時間外労働=残業の罰則付き上限規制が2019年4月からスタート。トラック運送業界においては2024年4月1日から、この上限規制が適用されることになっています。

ただし、改善基準告示で定める年間拘束時間の上限は3516時間であり、働き方改革による残業の上限規制に比べて216時間長くなってしまいます。

これを受けて、告示における年間拘束時間の上限も短縮されることが予想され、現状でも拘束時間を守ることがままならない運送事業者にとってはますます厳しい時代が到来することになるでしょう。

 

2019年に改正された改善基準の違反による行政処分の書類

各地方運輸局による監査の結果、悪質な法令違反があった場合、運送会社には行政処分が下されます。

監査は輸送の安全確保に影響のある重要な法令違反が疑われる事業者に対して優先的になされ、また過去の監査や行政処分の状況、利用者からの苦情などの観点からも実施されます。

行政処分の種類としては、車両使用停止、事業停止、許可取消などがあります。車両使用停止は「処分日車制度」と呼ばれ、一定期間、運輸局にナンバーを返納し、車両を使用できなくなるものです。

車両使用停止

車両使用停止は、帳簿類の改ざん、点呼の一部未実施、健康診断未受診者2名以上などで処分日車制度が適用されます。

200日車(1台200日間稼働させることができない)を超える車両停止処分を受けた場合は、インターネット上などに違反事業者名が公表されます(ネガティブリストと言います)。

また行政処分を受けたのち、3年以内に再び同様の違反をした場合、処分日数は倍になるので注意して下さい。

 

事業停止

事業停止は運送業務が一定期間できなくなる処分で、停止期間は基本的に30日間で、主に以下の違反があった場合に適用されます。

  • 全運転者に対して点呼を全く実施していない場合
  • 定期整備点検を全く実施していない場合
  • 整備管理者が全く不在の場合
  • 運行管理者が全く不在の場合
  • 名義を他人に利用させていた場合
  • 事業の貸渡しをしていた場合
  • 検査の拒否や虚偽の陳述を行った場合

 

許可取消

許可取消は、運送業の許可が取り消しとなる、最も重い処分で、主に以下の違反があった場合に適用されます。

  • 過去2年間で事業停止処分を3回受けていた事業者が累積違反点数の一定の基準を超えた場合
  • 自動車検査証、登録番号の返納命令に従わなかった場合
  • 事業停止となった事業者が3年以内に同一の重大な違反を犯した場合

なお違反点数とは、車両停止以上の処分を受けた事業者に運輸局単位で付与されるもので、基本的に3年間点数が累積されます。

処分日車数10日車につき1点、上記の事業停止処分に該当した場合は各30点が付与されます。一つの管轄地域で違反点数の累積が81点以上となった場合には、許可取消処分が下されます。

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過労防止違反に関する処分量定の引き上げ

過労防止違反に関する行政処分の処分量定は、2018年7月より従来の2~4倍に引き上げられました。

月の拘束時間及び休日労働の限度に関する違反が確認された場合、従来、未遵守5件以下は警告で済みましたが、改正後は未遵守1件で処分日車数は10日車、未遵守2件以上で処分日車数は20日車となっています。

また、疾病、疲労などの恐れのある乗務に関して、健康診断未受診者1名の場合は警告、2名の場合は20日車、3名以上の場合は40日車となっています。

行政処分により停止される車両数の割合も最大5割引き上げられ、従来に比べて日数は短いですが、より多くの車両が停止させられるわけです。

 

【EX1】
配置車両数10両で150日車の処分を受けた場合、従来は車両停止2両×75日でしたが、改正後は5両×30日となります。

【EX2】
配置車両数100両で150日車の処分を受けた場合、従来は車両停止7両×18日、1両×24日でしたが、改正後は15両×10日となります。

 

まとめ

自動車運転者のため労働時間などを定めた「改善基準告示」とは何か、改善基準告示で特に理解しておくべきポイント、2019年に改正された改善基準に違反による行政処分について解説してきました。

労働基準法など、従業員に対する労働環境の法改正がなされたいま、トラック運送事業者として事業継続するためには、しっかり法令を守っていかないといけません。

トラック運送事業は走れるだけは知って儲ける。そんな時代は過ぎ去ったということですね。

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