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労働基準法

運送業の長時間労働の現状・問題点と改善策を優しく解説

kglo-kawai

運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

過労死など多くの問題が発生しているなか、運送業における過重労働の改善が求められています。では運送業の長時間労働の現状はいかなるものであり、どのように改善されるべきなのでしょうか。

そこで、この記事では
運送業が長時間労働になる理由や、その問題点、改善策などについて解説していきます。

 

運送業が長時間労働になる理由

厚生労働省は、「平成28年度過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業報告書」を公表しています。そのなかで自動車労働従事者に対する調査において、残業=所定外労働が発生する理由としてトラック運転手からの回答数が多かったのは、以下のものです。

  • 取引先の都合で手待ち時間が発生するため(52.1%)
  • 仕事の特性上、所定外でないとできない仕事があるため(39.6%)
  • 業務の繁閑の差が激しいため(34.0%)
  • 予定外の仕事が突発的に発生するため(30.4%)
  • 人員が足りないため(26.2%)

以上のように、運送業自体の「構造上からの理由」が多く占めていることがわかります。

 

運送業が抱える長時間労働の実態と問題点

運送業が抱える長時間労働の実態として「荷待時間」や「荷役作業」が挙げられます。

多くの集荷場や荷下ろし場においては、他のトラックの荷積み・荷下ろしを待つ時間が長くなりがちです。ひどいときには3時間~5時間の待ち時間が発生します。加えて荷役作業=荷造りや仕分けなど、付帯業務の発生も長時間労働の一因です。

これらは運賃に反映されることはなく、運転手や運送会社の負担になってしまうケースがよくみられます。しかし、荷主と運送会社とのパワーバランスがあるため、荷待ち時間や荷役作業の対する料金が支払われることが少ないのが現状です。

 

また、トラック運転手の有効求人倍率は、2008年以降、上昇傾向にあります。2018年8月現在では、全職業で1.46倍に対してトラック運転手は2.73倍となっています。求職者に対して企業がより多くの労働者を求めている状態にあり、それだけ企業は人手不足であると認識しているわけです。

事実、トラック運送会社の社長とお話をしていると、「求人広告を出しても、まったく反応がない。」という声をよく聞きます。

Eコマースの発展などによって物量が増加しており、運転手にはますます負担が掛かってしまうという現状も見逃せません。

運転

 

運送業の長時間労働問題|労働基準法における4つの改善策

運送業における長時間労働改善のためのポイントはどこにあるのでしょうか。以下では、

  1. 運転手の拘束時間と休憩時間の確保
  2. 運転時間に関する規定
  3. 運転手の時間外労働に対する制限
  4. 運転手の過重労働防止策

の4つについてみていきます。

 

①運転手の拘束時間と休憩時間の確保

運転手の拘束時間の限度は、原則1日13時間です。延長する場合でも最大16時間、15時間を超える回数は週2回以内と定められています。また、1か月の総拘束時間の制限は原則293時間です。

1日24時間は16時間以内の拘束時間と8時間以上の休息期間からなり、休息期間が9時間未満となる回数は、週2回が限度となります。

ただし、全勤務回数の2分の1以内、1日1回当たり継続4時間以上、合計10時間以上であれば、分割休息が認められています。

このほか、1台のトラックに運転手が2人以上いる場合は、特例として1日の拘束時間は最大20時間(1か月293時間はそのまま)、休息時間は継続4時間まで短縮が可能となります。

途中でフェリーに乗る場合は、乗船時間の2時間までを拘束時間とし、それ以外を休息時間とみなします。

隔日勤務(日中から翌日の朝までなど)は、2暦日の拘束時間が21時間以内、勤務終了後の休息時間が継続で20時間以上ある場合に可能となります。

 

②運転時間に関する規定

運転時間の限度は、2日(48時間)平均で9時間以内、2週間ごとの平均で44時間以内。連続運転時間は4時間までです。

4時間運転したら、30分以上の休憩時間をしないと法令違反となってしまいます。運転しない時間を分けて取る場合であっても1回10分以上にしないと、こちらも法令違反となります。

 

③運転手の時間外労働に対する制限

運転者に時間外労働をさせるには必ず労使協定(36協定)の締結が必要です。時間外労働の限度は、1日の拘束時間最大16時間、1か月原則293時間であり、休日労働は2週間に1回までと定められています。

 

④運転手の過重労働防止策

時間外労働が月100時間を超えると、脳や心臓疾患の発症が高まります。よって使用者は過重労働による健康障害を防止するために、36協定によって労働時間を定め、

  • 有給休暇の取得を促進
  • 健康管理体制の整備
  • 健康診断の実施
  • 長時間労働者に対する医師の面接指導

などをしなければなりません。

健康診断に関しては、運転者全員が毎年受診しなければいけません。なお、6か月の平均で月4回以上の深夜業務(午後10時から午前5時まで)をする運転者は、6か月ごとに健康診断を受診する必要があります。

また過剰な負担やストレスによるメンタル不調を防ぐために、心の健康づくりに取り組むことも必用でしょう。

長時間労働

 

長時間労働問題の改善に向けて運送会社が行うべき事とは?

上記のような労働環境にある運送業界で、運送会社は長時間労働問題を改善するために何をすべきか具体的に見ていきましょう。

 

運転手の労働実態の把握

使用者は、運転手の労働実態をしっかりと把握しなければなりません。運転手の労働時間管理のためのツールとしては、例えば「運転日報管理システム」があります。

このシステムでは、パソコン入力で労働時間や拘束時間、時間外労働などを集計し、法令に定められた基準をオーバーしていないか自動的に評価してくれます。

運転手の労働時間を把握するにも人手がかかる。そうお考えの運送会社様は、テクノロジーの導入で解消するのが良いでしょう。

 

運転手の待遇見直し

使用者は、労働時間の基準の遵守、運用の効率化を図るとともに、経営改善による賃金の向上に取り組まなければなりません。バブル崩壊以降、運送事業への参入障壁の緩和、景気低迷により運賃は低下の一歩をたどり、運転手の待遇もそれを反映し、切り下げられていきました。

現在は、長年にわたって低調なままに置かれてきた運転手の待遇を見直す時期に来ています。

運用の効率化に関しては、宅配などの再配達を改善することは必至です。駅などに宅配ロッカーを設置したり、コンビニで荷物を受け取ることを奨励することも必要でしょう。

 

運転手の人手不足補てん(女性や外国人ドライバーの採用、ドライバーの生産性向上など)

運転手の人手不足を解消するために、女性や外国人ドライバーの採用を増やしていくなどの施策も必要となります。ファークリフトを使用して荷物の積み下ろしをするなど、技術の進展により力仕事の割合が減っており、女性が活躍できる余地が大きくなってきています。

輸送業務の質の向上が求められるなか、今後は女性による細やかな気配りは、運送業界全体に必要とされることでしょう。

 

運転手の人材育成・教育の充実

運転手の人材育成を図る方法としては、例えば、優良運転手の表彰制度、ドライバーコンテストの実施、従業員満足度指数の導入などが考えられます。

このほか、社内メンター制度を設けて、定期的に運転者の悩みを解決していくことも人材定着につながる施策となるでしょう。

 

まとめ

運送業が長時間労働になる理由、運送業が抱える長時間労働の実態と問題点、運送業の長時間労働問題、労働基準法における4つの改善策 長時間労働問題の改善に向けて運送会社が行うべきことについて解説してきました。

運送会社にとって、今後も続く人手不足のなかで生き残るために長時間労働改善に向けた取り組みをすることが必須となってくるでしょう。

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運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

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