トラック運送業で切っても切れないのが交通事故です。運転手が業務中に事故を起こした場合の損害額を一定の割合で運転手に自己負担させるという運送会社も多いはず。
しかし、事故時の損害額は本当に運転手に自己負担させても大丈夫でしょうか?
この記事では、トラック運転手が業務中に事故を起こした場合の損害額の「自己負担」について詳しく解説します。
まずは、より理解を深めるためにトラック運転手が業務中に起こす事故の実態からみていきましょう。
トラック運転手が業務中に起こす事故の実態
警察庁が公表した2017年の事業用貨物自動車の死傷事故に関するデータ(以下同じ)によると、死傷事故件数は減少傾向にあります。
死傷事故の件数は2008年には24,222件でしたが、その後、減少を続け2017年には14,216件となっています。保有車両台数は2008年で1,414,703台、2017年で1,419,605台とほぼ横ばい、むしろ微増の傾向にあるので、事故の割合が減少していることがわかります。
2017年の死傷事故件数を車両の種類別でみれば、
- 大型5,663件
- 中型4,861件
- 準中型2,452件
- 普通1,240件
となっており、一番多いのは大型車両の事故です。
時間帯でみると、死傷事故では
- 10~11時台が2,388件16.8パーセント
- 8~9時台2,310件16.2パーセント
- 12~13時台1,871件13.2パーセント
と続いており、朝から昼にかけての事故が多くなっています。
また死亡事故率(死傷事故件数に占める死亡事故件数の割合)が高いのは、
- 2~3時台6.9パーセント
- 4~5時台4.9パーセント
の順であり、深夜から早朝にかけての事故が多いことがわかります。
トラック事故の主な原因
トラックによる事故の原因を法令違反別にみると、
- 安全不確認が3,690件26.0パーセント
- 脇見運転が2,928件20.6パーセント
- 動静不注視(相手を認識したが危険ではないと思って注視を怠ったりすること)が2,214件15.6パーセント
となっています。
死亡事故で最も多いのは漫然運転で全体の21.5パーセントを占めています。運転中のスマホ操作はもちろん、ぼんやりしていたり、ラジオに聴き入っていたりしていたことが事故につながりやすいと言えるでしょう。
主な事故の種類
トラック運転手の主な事故の種類には、どのようなものがあるでしょうか。ここでは、
- 人身事故
- 物損事故
に分けてみていきましょう。
①人身事故
トラック運転手の死傷事故で最も多いのは、
- 駐車・停車中の追突で6,316件
- 出会い頭衝突で1,285件9.0パーセント
- 進行中の追突974件6.9パーセント
と続き、駐・停車中の追突事故が約半数を占めているのがわかります。
事故対象別にみると、
- 車両相互が13,113件92.2パーセント
- 対歩行者が935件6.6パーセント
- 車両単独が167件1.2パーセント
車両同士の事故が圧倒的に多く、9割を占めています。
ちなみに、列車との事故は1件のみであり、ニュースで取り上げられると強い衝撃を与えますが、件数自体は多くないことがわかります。
②物損事故
トラック運転手が起こす物損事故で多くなるのは、
- ガードレールの破損
- 縁石の破損
- 看板の破損
などです。
例えばガードレールの価格は、形状によって様々ですが、1メートル当たり5,000円から50,000円になり、賠償の際はさらに工事費が加わることとなります。
物損事故で高額の賠償となったケースとしては、呉服、洋服、毛皮などを積んだトラックが高速道路で追突して横転、炎上して積荷を焼失したものがあり、荷主が運送会社を訴え、裁判で損失額が2億6,135万円と認定されました。
結局、荷主が積荷価格を申告しなかったという過失が認められ、賠償額は半額の1億3,067万円となっています。
1億の賠償金額を支払えるトラック運送会社はほんの一握りでしょう。自動車保険に加入して万が一のために備えることの大切さが実感できるはずです。
トラック運転手の自己負担(過失割合)はどう決まるのか
トラック運転手が業務中に事故を起こしたときに自己負担する額、過失割合はどのように決まるのでしょうか。
①雇用契約内容によるケース
雇用契約や就業規則には、交通事故にあった際に費用をどうするかが規定されていることが一般的です。保険によってカバーできなかった費用については、会社側は労働者に請求するなどと定められたりします
なかには会社側は一切費用を負担せず、全額を運転手の自己負担としたり、運転手の自己負担額を50万から100万円などで上限を設けて給与から天引きしたりするケースがあります。
また無事故期間には手当を支給するというインセンティブを設けている会社もあります。
②事故の起因内容によるケース
自己負担額は事故の起因内容によっても決まってきます。例えば飲酒運転は100パーセント運転手の過失となり、またスマホを見ながらの運転も同様でしょう。
運転手に重大な過失がない場合は、会社が事前に事故防止のためにどのように取り組んでいたかが賠償範囲に関わることとなります。
事故の修理費などがトラック運転手の自己負担にならないケース
運転手の過失が小さい場合は、裁判所は原則として会社側が修理費等を負担すべきであるという立場をとっています。
従業員を雇用して利益をあげている会社としては、修理費用まで従業員に支払わせるのではなく、保険に入るなどの措置を講じるのが当然であるとみなされているわけです。
まとめ
トラック運転手の事故と自己負担との関係について解説してきました。 国土交通省では、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、トラックによる交通事故を減らし、安全管理を高めていく計画を定めています。
事業所においてもこれまで以上に交通事故防止対策を講じていかなければならないでしょう。