トラック運送業界でよく導入されている歩合給。この歩合給は売り上げや仕事の成果によって、賃金の変動が行われる制度のことです。
歩合給を運転者に支払う場合でも、完全な歩合給制(いわゆるオール歩合)は違法とされており、最低賃金や一定額の保障など、守るべきルールがあります。
使用者側がルールを知らない、あるいは守らないためにトラック運送会社と運転者の間で賃金をめぐって訴訟になることも少なくありません。
この記事では給料をめぐって労使の争いにならないために、トラック運送会社が歩合給を導入するに当たってはどのようなことが注意点となるか解説いたします。
より理解を深めるために、まずは運送会社が歩合給を導入している理由から見ていきましょう。
多くのトラック運送会社が歩合給を導入している理由
トラック運送会社では歩合給を導入している会社が多く、特に中小企業では過半数が導入しています。
昭和の時代は、働けば働くほど給料が上がる職業の代表格がトラック運転手でした。貨物の量が多く、とにかく量をさばくためには走ってもらわなければいけない。しかし、量をさばくためには拘束時間も長くなり過酷な労働となるため、運転者のモチベーションを維持する必要がある。
働いても働かなくても給料が同じでは、モチベーションの維持ができないという運転者が多いため、「走った分だけ給料がもらえる」という運転者個人の働きぶりが仕事に反映される歩合給制を選ぶ運送会社が増えたと考えられます。
ただし、歩合給を導入せずに、運転者のモチベーションを維持させているトラック運送事業者様もいらっしゃいます。
歩合給制が良い、悪いという話ではありませんのでご注意ください。
歩合給における保障給について|労働基準法27条
労働基準法第27条では、以下のように出来高払い=歩合給について規定しています。
出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
つまり、仕事量が少なくなった場合でも給料が極端に低くなることがないように一定額の給料を保証しなさいということです。
トラック運送業でよくある4つの歩合給の基準
ここでは、トラック運送業における歩合給の基準に関して、よくある4つの例をみていきましょう。
例1|売上・ポイント数
売上・ポイント数による歩合給は、運転者個人の運賃収入など売上(いわゆる水揚げ)を基準にしたり、貨物ごとにポイントを割り当てて基準にしたりします。売上から燃料代や高速代を差し引いて計算することもよく行われています。
売上・ポイント数による歩合給を導入しているトラック運送会社では、高速道路に乗らずに下道で帰ってきた運転者には、かかったであろう高速代の数%を歩合給にオンするという制度を設けているケースがよくあります。
例2|運行回数
運行回数を基準にする歩合給は、長距離輸送の際によく導入されます。1回線いくらという賃金がこれに当たります。
例3|積み下ろし、立ち寄り件数など
積み下ろし作業の負担が重い仕事においては、積み下ろし回数を基準に計算することがよくあります。また立ち寄り件数を基準にするケースも見られます。この場合は、走行距離と積み下ろしの両方を歩合給の換算に入れることが可能です。
例4|走行距離
走行距離数を基準とするもので、貨物を積んで走行した実車距離と、空車で走った距離で格差を設けるやり方もあります。
トラック運送会社が歩合給を導入する際に注意すべき5つのポイント
ここでは、トラック運送会社において歩合給を導入する場合にポイントとなる
- 最低賃金法の確認
- 保障給
- 説明責任を果たす
- 労働者側(代表者)との合意
- 就業規則などの変更手続き
の5点についてみていきます。
ポイント1|最低賃金法の確認
労働基準法第28条は、最低賃金については「最低賃金法」によると規定しています。
最低賃金は各都道府県労働局長が決定し、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。「地域別最低賃金」は、職種にかかわらず、どの労働者にも平等に該当するものです。
対して、「特定最低賃金」は特定の職種に対して定められたものです。
日給であれば、日給を1日の所定労働時間で割った額が最低賃金を超えているかどうか、月給であれば、月給を1か月の平均所定労働時間で割った額が最低賃金を超えているかどうかをチェックします。
出来高払いであれば、賃金の総額を総労働時間で割った額を最低賃金と比較して確認します。
最低賃金は毎年変更があるため、最新の最低賃金に対応しているかを確認することを忘れないようにしましょう。
ポイント2|賃金の6割は「保障給」として支払う
労働基準法第27条は、前述のように「労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」としています。最低保障額が低ければ、労働者の生活は安定せず、安心して働くことができなくなってしまいます。
「一定額」とはどのくらいかが問題となりますが、労働基準法第26条で
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」
と定められています。
つまり、休業期間でさえ6割の賃金が保障されていることから、少なくとも6割以上の保障が「一定額」の目安となるわけです。
ポイント3|説明責任を果たす
歩合制の導入により、ほとんどの社員の賃金が減ってしまい、実質的な賃下げ策の実施になってはいけません。また、運転者から賃下げだと受け止められてもいけません。
歩合給を導入する場合、のちの争いを防ぐためにも、使用者は労働者に対してしっかり説明責任を果たす必要があります。
ポイント4|労働者側(代表者)との合意
労働基準法第2条は、
「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」
と定めており、賃金をはじめとした労働条件は会社側が一方的に決めることはできません。
過去の裁判においても労働条件の不利益な変更は、合理性がなければ認められておらず、労働者の意見を無視した勝手な変更は違法であり、無効となってしまいます。
ポイント5|就業規則などの変更手続きをする
10人以上の従業員がいる会社においては、就業規則作成が義務付けられています。就業規則は、営業所を管轄する労働基準監督署へ提出する必要があり、変更、改正された時も同様に届出をします。
就業規則に含まれる内容は大きく、絶対に記載すべき「絶対的記載事項」と特定の条件に当てはまるときに記載すべき「相対的記載事項」に分かれます。
臨時に支払う賃金などを除いて、賃金に関しては絶対に記載すべき内容に該当します。
就業規則は自社でコストをかけずに作成することもできますし、高度な専門知識を有する社会保険労務士や弁護士に作成を依頼することもできます。
トラック運送業は、運転者によって出勤時間が違うなど、特殊な勤務体系となるケースが多いため、インターネットでダウンロードしたモデル就業規則などをそのまま使用することは危険です。
専門家に就業規則作成を依頼することをおすすめします。
まとめ
運送業において歩合給を導入する際の注意点について解説してきました。 歩合給制では、成果に合わせて賃金が高くなるため労働者のモチベーションを保ち続けることが容易になりやすい一方で、サービス残業を生じやすいという一面もあります。
不用意な訴訟を起こされないためにも、トラック運転者の給料に歩合給を導入する場合は、争いになったり、社員から不満の声が出ないように細心の注意を払うようにしましょう。