トラック運送業における残業問題

労働基準法

運送業の残業時間の問題点と対策がよくわかる記事

kglo-kawai

運送会社に12年勤務した行政書士。運送業許可のプロ事務所「行政書士法人シフトアップ」の社長★著書「行政書士のための運送業許可申請のはじめ方」

運送業においては、労働環境の改善が求められており、特に残業時間のあり方については問題となっています。

そこでこのページでは、運送業における残業の実態や改善方法、そもそも労働基準法では残業についてどのような取り決めがあるかのどについて開設していきます。

 

運送業の残業時間の実態

運送業において残業の問題は深刻です。厚生労働省による2017年の調査によると、トラック運転手の労働時間については、平均月210時間、うち残業時間は34時間とされています。

年代別にみると、最も労働時間が長いのは30~34歳で215時間、うち残業時間は38時間となっています。

しかしこれは調査対象に選ばれた事業者が申告したものであり、実際にはより長時間の労働を余儀なくされている運転手も少なくないとみられます。

例えば、2015年に実施された和歌山県のトラック輸送に関する調査では、手待ち時間のある運行の拘束時間の平均は、12時間46分。休憩時間は1時間21分とされていますので、労働時間は11時間25分、月の出勤日を22日で計算すると、月間の労働時間は251時間となります。

このように先の厚生労働省の調査よりも長時間労働をしている実態が浮かび上がってきます。

 

運送業の残業時間の問題点

運送業は業務の構造上、残業時間の発生しやすい業種となっています。なぜ、残業時間が発生しやすいのか、その問題点について具体的に見ていきましょう。

不規則な労働時間

運送業では、渋滞の発生による道路状況や、集配コースの変更などにより予定労働時間を大幅に超えることが少なくありません。

トラックを走らせて貨物の積み下ろしを行うという業務である以上、仕方のない部分もありますが、不規則な労働時間になってしまうことが多いのは否定のしようがありません。

作業および荷待ち時間

運送業においては、多くの場合、運転時間のほかに荷役時間・荷待ち時間が発生するため、これも長時間労働の一因となります。

荷待ち時間・荷役時間は、トラックの大きさや輸送する貨物の種類によって変わり、より多くの貨物が積める大型車両になれば長くなる傾向にあります。

また、航空貨物や港湾貨物はコンテナの中から貨物を出す前の燻蒸処理などが長引く傾向にあるため荷待ち時間は必然的に長くなります。4~5時間待ちということも珍しくありません。

 

航空貨物、港湾貨物のほか、荷待ち時間の平均が長い品としては農水産品、金属機械工業品が挙げられます。

荷待ち時間は毎日1時間としても、月に20時間以上に及びます。これが運転手の長時間労働の一因となっています。

なかには荷待ち時間を労働時間に含めないと主張するトラック運送事業者もあり、残業代が支払われないために運転手の待遇を悪化させることとなります。

書面等に明確な記載がない

先の2015年の調査では、全国で荷役の内容について書面化しているのは58.2%、口頭で依頼しているのは32.3%、事前連絡なしが9.5%となっています。書面化している場合、荷役料金を収受できているケースは71.2%です。

一方、書面化していない場合、80.5%が荷役料金を収受できていません。運送業者としても立場上、荷主側に強く言えないというのが実状でしょう。

人材不足

運転手が不足していることも長時間労働の原因となります。2018年8月現在、トラック運転手の有効求人倍率は2.73倍(全職業で1.46倍)となっており、運送業では人手不足が深刻であることがうかがえます。労働条件の改善なくしては、人手不足の解消は困難かもしれません。

コンビニで働いても同等の給与がもらえて、長時間労働も荷待ち時間もない、さらに運転者より楽となれば、あえてトラック運転者となることを避ける労働者が増えるのも仕方ありません。

女性ドライバーを労働力に加えようという動きもみたれますが、国やトラック運送事業者がドライバーは魅力的な仕事だと思ってもらうための策を講じないと運送業界における人材不足の解消は難しいでしょう。

トラック運送業と労働基準法

 

労働基準法の残業に関する規定

長時間労働の改善に関連し、労働基準法の規定を今一度確認しておきましょう。以下では、自動車運転者の労働時間の規定を定めた「改善基準告示」における
・労働時間と休憩時間について
・休息期間・休日について
・時間外・休日労働について
の3つについてみていきます。

労働時間と休憩時間について

拘束時間は労働時間と休憩時間からなります。運転手の拘束時間は、原則1日13時間が限度となっています。延長することも可能ですが、その場合、1日最大16時間で、15時間を超えてもいい回数は週2回以内と定められています。

また1か月の拘束時間は、原則293時間とされています。労使協定を結んだ場合は延長が可能ですが、その場合、320時間が限度で年間の拘束時間は3,516時間を超えることはできません。

休憩時間は、労働時間が6時間から8時間の場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩が必要です。しかも休憩は労働時間の途中で与えられ、かつ運転者が労働から解放されなくてはなりません。

待機時間や手待ち時間は、休憩には含まれず、勤務時間とみなされます。

休息期間・休日について

休息期間とは拘束時間以外の時間を指します。1日の拘束時間は16時間以内ですので、休息時間は8時間以上となります。しかも休息時間が9時間未満となる回数は、週2回以内でなくてはなりません。

ここで注意いただきたいことは、休息期間は8時間与えれば良いのかと安易に考えないことです。1週間に休息期間が8時間の日が2回以上となれば、拘束時間16時間超えが2回以上となってしまい法令違反となってしまいます。

「休息期間は最低でも8時間。ただし、8時間となる日は週に1回だけ」と覚えておきましょう。

休日に関しては、会社は週に少なくとも1回、あるいは4週間で4日以上、休日を与える必要があります。これは「法定休日」と呼ばれます。

時間外・休日労働について

労働者と使用者による協定=「労使協定」が結ばれ、割増賃金(1.35倍)が支払われれば、残業や法定休日の出勤が可能となります。時間外労働の限度は、1日の拘束時間最大16時間、1か月原則293時間、休日労働は2週間に1回までです。

会社が定めた法定外休日の出勤に関しては、労使協定や割増賃金は必要となりません。ただしその週の労働時間が40時間を超えている場合、法定外休日の出勤も残業扱いとなり、1.25倍の割増賃金となります。

少々複雑ですが、休日出勤の多いトラック運送事業者様は覚えておかないといけませんね。

 

運送業の残業時間対策はこうして解消する

以上のような労働環境にあるトラック運送業界で、長時間労働問題を改善するために何が必要となるのか見ていきましょう。

労働基準法に沿ったルール作り

まずは会社が労働基準法のルールをしっかり理解する必要があります。そのうえで就業規則を作り、社員に周知させましょう。法令上は従業員数が5人以上でなければ就業規則作成は義務ではありません。

しかし、労使トラブルの多いトラック運送業界にとって、就業規則の作成はトラブルを回避するために、運転者の数にかかわらず必須と言えます。

労務管理の見直し及び書面化

会社は、運転手の労働実態をしっかりと把握し、労務を管理しなければなりません。改善基準告示に基づく労働時間の基準遵守と運用の効率化が必要です。

そして効率的な輸送、適正な運賃の収受のためにも、運送内容や支払などについて書面化することが求められます。

残業時間に関係なく一定の残業代を支払う固定残業代制度を導入している場合でも、労働契約に明記されてなかったり、固定給と固定残業代が明確に区分されてなかったりすると、無効となるため注意が必要して下さい。

ドライバーの意識向上をうながす教育

女性や高齢者、外国人など多様な人材を確保するとともに働きやすい環境を整え、ドライバーの意識向上もトラック運送会社には必要です。ドライバーが自ら提案した作業やサービス改善のアイデアに報償を出したり、主体的に労働のあり方を考えてもらうことも大切でしょう。

 

まとめ

運送業の残業時間の実態、運送業の残業時間の問題点、労働基準法の残業に関する規定、運送業の残業時間問題の解消について解説してきました。

運送事業者様においては、労働基準法における規定や解釈などをしっかり押さえて、いかに事業継続するかを本気で考えないといけない時期が来ています。

特に人材不足問題を乗り越えるために、残業時間の圧縮については早急に対応してくべきでしょう。

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