このページを読んでいる人は、運送業で起業を考えている方だと思います。運送業界に居たという人であっても、起業家としては未知の世界に飛び込むことになります。
起業するからには事業を継続させたいですよね。そのためには、起業前に考えておくべきことを知ることが重要です。
多くの運送業起業者を見てきた弊社シフトアップが、運送業起業前に考えておくべきことをまとめてみましたのでご覧ください。
トラック運送業の経費は大きい
事業を継続させるためには、売上を確保して利益をあげるのが大前提です。売上をあげないと従業員の給料も支払えませんし、トラックの維持もできません。
トラック運送業の主な経費は
- 従業員の給与や社会保険料・労働保険料
- ガソリン代や高速道路代
- トラックのローンやリース料
- トラックの修繕費
- トラックの自動車税や重量税、自動車保険料
- 事務所や駐車場の賃料
など。
このほか、老朽化していく車両買い替え資金や決算後に支払う法人税や消費税の蓄えも必用です。なかでも、一番手痛い出費になる可能性があるのは、トラックの修繕費や買い替え費用です。
一定の走行距離を走ったり、扱いの荒い運転をされたトラックの修繕費は百万円単位となることもザラではありません。まだまだ乗れるトラックが事故で廃車になれば、保険から補てんされる金額の差額は会社で負担してトラックを購入しなければいけません。
製造業などに使う機械などは一定の期間が経過すれば買い替えの時期だと予測はできます。しかし、運送業に使用するトラックは事故や故障による「予想していない出費」が発生する確率が非常に高いです。
急な出費にも耐えられる体力をつける会社経営を心掛けなければいけません。
人材不足に対応することが重要
人材不足が叫ばれて久しい今日この頃。最近では「人材不足倒産」という言葉も良く耳にします。
仕事はあるが、それをさばく人材が確保できないため収益が悪化し、固定費負担が経営を圧迫するなどの理由で倒産してしまう現象です。
2018年の日本銀行の統計では、運送業の人手不足は国内全業種の中でワースト1位というデータが公表されています。
弊社のお客さまでも、運送業許可申請時に確保していた運転手が許可取得前に辞めてしまい、なかなか運送業を始められないという状態の方がいらっしゃいます。
これからの時代は、人材不足にどう対応していくのか考えて運送業を起業しなくてはいけません。
対応策としては例えば、
- 女性やシルバー人材を上手に使う(長距離輸送には不向きな対策)
- 各種手当や※ライフサポートなど福利厚生を整える
- 清潔な事務所・休憩室や整備の行き届いたトラックなどで企業イメージを良くする
- ホームぺージを人材募集ツールとして使う
- ツイッター※などのSNSを活用して若い人材に会社の魅力を発信する
など、得意先への営業だけでなく、自社の欲しい人材に合わせた人材の募集方法も考えないといけない時代になっています。
※ライフサポートとは、弁当代の補助、生命保険加入、乳幼児の保育料の補助など、会社生活と家庭生活の両立を支援するために、企業が独自に定める制度のことです。
※ツイッターは、いま最も有効な採用のためのツールだと言われています。ただし、フォロワーを増やすことが前提で、そのためにかなりの労力を要します。
昨今の求職者は何会社に何を求めているのか
ひと昔前に比べ求職者の価値観が変わっています。特に若い人材は給与や勤務地などわかりやすい労働条件だけでなく、自信の仕事に対する価値観やライフスタイルに合う職場かどうかを見ています。こうした変化に対応しなければ、人材、特に若い人材を確保するのは難しい時代になりました。
多くの運送会社が、人材不足に悩む背景の一つとして、会社を経営する目的や成し遂げたい目標を定めて求職者に向けて情報発信していないことがあげられます。
運送会社だから安心安全を運ぶことが仕事というのは当たり前の世界であり、どの運送会社も理念として掲げやすい目的です。
それより一歩踏み出して、わが社は社会に対してどんなインパクトを与えたい企業なのかという目的を定めて情報発信しないと、現在の求職者には魅力ある会社に映りません。
「車両5台や10台で、そんなこと決める必要はない。とにかく文句言わずに荷物を運んでくれる人が欲しいんだ。」
もし、そう思っていたら危険信号です。
ネームバリューそのものが価値となる大企業ですら人材不足に悩むいま、ネームバリューのない中小運送会社が人材を勝ち取るには、求職者に「この会社に就職したら面白そうだ」と思ってもらしかありません。
求職者は、仕事に対する価値を求めています。自分の仕事が会社にどのように貢献したのかわかることこそ人材確保、特に若い人材を確保するためには必用なことです。
良い職場環境とはどんな環境かを知っておく
【悪い職場環境とは】
まず従業員にとって悪い職場環境とは何かのお話です。悪い職場環境とは、社長を含む管理者層が、日々の業務に追われて目の前の仕事を間違いなく終わらせることに自分の時間の大半を使っている。
そのため、運転者とほとんどコミュニケーションが取れずにすれ違いが起こり離職者が出る。そしてまた人手が足りないからと、社長はトラックに乗って奔走するという悪循環に陥る。これが悪い職場環境です。
管理者層と運転者がコミュニケーションを取る時間がないと、お互いに何を考えているのか理解することができません。例えば、急な運行をお願いしたときに会社は自分のことをコマとしか思っていないのか。そう思われても仕方がない状況を作ります。
そこに給料の低さが加われば、もうこんな会社辞めようと考える運転者が出てても仕方ありません。
良い職場環境とは
良い職場環境とは、管理者層と従業員が普段からコミュニケーションを取り、相互に信頼関係を築いている環境です。
コミュニケーションを密に取り、お互いの人物像や価値観がわかっていれば、意思疎通が図れるためすれ違いも起こりにくくなります。
運送業を営んでいると、どうしても運転者に急な運行をお願いしないといけない場面が出てきます。そんなときでも、信頼関係ができていればお互いにムダなストレスを抱える必要がありません。
さらに、良い職場環境にするには、運転者に対して高過ぎず低すぎない適切な目標を課して成長を促すことです。
トラック運送のドライバーにどんな目標を持たせるかは、会社の理念に沿ったもので構いません。
例えば、日本で一番環境に優しい運送会社を理念とするならエコドライブの数値目標でも良いでしょう。そして目標を達成した運転者には何らかの形で報酬を与える。
といったように、会社も従業員も相互に期待感が持てる良い職場環境につながります。
運行管理の知識はあるか
運送業を起業して事業運営するために運行管理の知識は必須です。なぜなら、適切な運行管理ができないと、巡回指導や監査で行政処分となってしまうからです。
トラック運送事業者に課される行政処分で最も多いのは、一定期間トラックのナンバーを運輸局へ返納する「車両停止」です。
予備車のない運送事業者にとっては、トラック1台が車両停止となるだけでも経営を圧迫しかねません。予備車のある事業者であっても、違反が重なれば運送業許可の取消し処分の可能性もあります。
ですから、運行管理の知識は必須となるわけです。
運行管理の知識とは、改善基準告示の内容だけでなく
- 拘束時間とは何で、1日の拘束時間は何時間までのか?
- 休息時間とは何で、どれだけの休息時間をドライバーに与えないといけないのか?
- どんな運行の時に運行指示書をドライバーに渡すのか?
- 対面点呼ができないような急な運行が入ったときはどう対応すれば良いのか?
- 事故が発生した時はどうすれば良いのか?
など、労働基準法や国交省の出した通達まで含んだ知識のことです。
改善基準告示とは何か?
改善基準告示は、正確には「自動車運転者の労働時間改善のための基準」と言い、運転者の労働時価の向上を図るため拘束時間や休憩時間などの基準を定めているものです。
トラック運送事業者の間で、よく知られているのは
- 1ヵ月の拘束時間は293時間まで(労使協定を結べば年間3516時間を超えない範囲で月320時間まで延長できる)
- 1日の運転時間は13時間まで。最大でも16時間まで。ただし、15時間超えは1週間のうち2回以内
- 連続運転時間は4時間まで。4時間運転したら30分以上休憩を取る
- 休息期間は1日8時間以上
といった内容ですが、このほかにもたくさんの決まりがあります。
運行管理者試験は受けた。しかし、年数が経過して忘れてしまったという方は、運送業起業前にもう一度復習しておきましょう。
折れない心をもっているか、孤独になる覚悟はあるか
起業家、つまり経営者の気持ちは、どこまで行っても従業員には理解されません。これは、親友や恋人のようにいくら親しい仲でも、相手の気持ちが理解できないのと同様です。
ましてや、起業当初に味わうお金に対する不安は雇用されているドライバーには理解できないでしょう。
ですから、経営者は孤独です。この「孤独や不安に耐える覚悟を持っているか」は運送業起業を成功させるためのポイントになるでしょう。
まとめ
運送業起業前に知っておいていただきたいことをまとめてみました。起業するからには事業継続することが大前提となります。
そのために、トラック運送業運営には多額の経費が必要であること、これからの時代を生き抜くために人材不足に対応できる会社になること、運行管理の知識を持っていること、そして孤独に耐える折れない心を持っていることが大切です。
これらの知識と熱い情熱を持って運送業開業を成功させましょう。